身体機能 カラダとのかかわり
「健全」の第一の要素は、身体機能です。
一般的に私たちが「健康」という場合、この身体機能が正常な状態であることを指すのではないでしょうか?
ただし、ここでいう「健康」は、近代医学的「健康」よりは、もう少し幅の広い概念となります。
17世紀レーウェンフックが顕微鏡で様々なアニマルクル(微小動物)を発見し、19世紀ロベルト・コッホが培養した細菌を使ってその病原性を証明すると、感染症の原因としての「病原菌」という概念が生まれました。
病原菌に対抗するために開発されたワクチンや抗菌薬などの精製薬剤は、それまで人類最大の天敵だったコレラやペスト、結核など伝染病の予防や治療を可能にし、近代医学が誕生しました。
自然科学の有力な一分野として、近代医学は「病」に注目し、その原因をカラダの「外」に見出して、それらの解明や臨床において劇的な成果をもたらしました。
科学的知見やマイクロレベルの技術の発達とともに、医学の研究対象は組織レベル、細胞レベルから分子レベルへとミクロ化していき、伝統的に外科内科の2分野だけだった医学者の専門領域も、限りなく細分化されていきました。
医学的専門性の細分深化に伴って、人間に対するマクロ的な視点が必要となる「健康」については、どの専門性の範疇にも入れ込むことができなくなってしまい、医学という学問分野の蚊帳の外に置いておくこととしました。
「健康」は「病」に非らざるもの、という非常にざっくりとした近代医学の健康観は、このような背景から生まれたのです。
英語で健康を表すhealthという語は、元々ギリシャ語のholosという「全体性」を表す言葉を語源としています。
様々な側面を持ったヒトの総体を意味しており、これを「〇〇でないもの」と定義するのは、考えてみればおかしな話です。
前回話題にしたWHOのhealthの定義は、この近代医学の健康観の矛盾を解消させる試みとして、考え出されたものだと言えるでしょう。
健康と病気を切り離す考え方は、「病原菌」というカラダ外部の存在の発見に由来します。
しかし、現代人の多くが悩まされている、がんや心臓病、脳卒中、糖尿病などの病気には、病原菌は直接的には関与していません。
「生活習慣病」と呼ばれるように、これらの病気は食事や睡眠、運動、精神活動など、日常の生活そのものがリスクファクターとなって現れる、カラダの表現形態のひとつなのだと考えられます。
健康と病気は全く別々なものなのではなく、健康という全体性の中において、部分的に病気といわれるような状態も存在する。
このように考えると、病気は決して怖いものでも排除すべきものでもないことが理解できると思います。
病気とはヒトが持って生まれた正常な身体機能の働きの中で、様々な状態が連続的に出現し、ダイナミックに変化していく一過程の表れだということです。
ヒトのカラダは、想像以上の可塑性とエネルギーを秘めています。
病気と呼ばれるような状態からでも、劇的にそれを変化させ得るチカラを、本来的に内在しています。
カラダにはホメオスタシスとアロスタシスという、環境変化に対応するための調整機能がありますが、これらが本来の働きを持続できるように自分自身の生活をマネジメントすることで、身体的健康状態はより良くより長く保つことが可能です。
そのために必要な各要素と方法は、健全の仕組みについての概論がひと段落した後で、解説していく予定です。