マイメモリー喫煙 |超短編小説
「これ、わたし山田の半生ドキュメンタリー。作ってきたから見て。ナレーションわたしね。面白いもんじゃないけど、これは君に伝えなくちゃいけないから」
君は驚いた表情をしていたけれど、無視してテレビをつけた。
わたしは人生のチュートリアルを終えたあの日から、毎日が退屈だった。
毎日の暮らしは同じことの繰り返し。
学校はオプションでいじめが付いてたし、わたしと友達になってくれる人なんていないんだって諦めてた。
みんなの家はお母さんって呼ぶのに、わたしは“サリー”って呼んでたし、わたしの家が普通じゃないことは薄々気付いてたんだけど、誰にも相談できなかった。
——サリー、お願い。わたしも魔法使いみたいになりたい。学校で殴られたりするのもう嫌だよ。どっか違う星に行きたい
そう訴えると、サリーは小さいキラキラの板をくれた。
——なに、これ
——これはね、鏡。もう一つの世界が閉じ込められているの。これを持ち歩いていれば、もう一つの世界にもお友達ができるのよ
サリーは本当に魔法使いみたいだった。サリーに言えば、なんでも叶った。今はもう、魔法使いみたいな優しさはなくなったけどね。
わたしはその鏡を毎日欠かさず持ち歩いた。
鏡の向こうの君も頑張ってるって思ったら、耐えて生き延びられた————。
わたしは泣きそうになってる君を視野に入れながら、自分は泣かないように、下を向いてテレビを消した。
息を吸って、ことばを吐く。
「わたしも君も大人になって、ようやくわたしは魔法使いを真剣に目指した。君も夢を真剣に追うようになってた。知らぬ間に君もわたしと同じくらい頑張ってた」
「でも君は怯えるように頑張ってたから、わたしがそっちに行って、わたしがたくさん持ってる勇気を君にあげようって思った。だって、もっと自分に自信持つべきだもん。……でも、もう君に勇気をプレゼントできたから、役目は終わり」
「わたしは、君と友達になれて本当に嬉しかったよ。陽太には先に行かれちゃったけど、わたしももう戻らなきゃ。ずっとここにはいられないからね」
大泣きしている君から目を離して、わたしは元の世界へと足を進める。最後のナレーションはわたしがいなくなってから流れる方がかっこいいから。
——げんきでね。大丈夫、ずっと見てるから。またいつだって助けに来れるよ。もうわたしも君も魔法使いなんだから。なんてね
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