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旅の目的はひとつかふたつ、の話。


こんにちは!山野靖博です!

人にはそれぞれに、得意なことがある。

部屋の整理整頓が得意。3桁の暗算が得意。中東の家庭料理を作るのが得意。着物の着付けが得意。フルマラソンを走り切ることが得意。UFOキャッチャーが得意。

ちなみに、上にあげたものについて、僕は、どれひとつとして得意ではない。


ところで僕は旅をするのが得意だ。もっと具体的に言えば、自分で旅をする際の、自分好みの旅程を組むのが得意なのだ。

自分好みの旅程を組むのが得意ではあるが、旅をすること自体がとてつもなく好きというわけではない。休みごとにどこかに出掛けなければ気が済まないというタチでもない。むしろどちらかといえば休みの日は、家でのんびり過ごす方が好きだ。

しかし時たま、旅をせざるを得ないことがある。舞台の仕事で数日間知らない土地で過ごす、とか、どうしても見たい美術の展示が遠方の美術館で開催される、とかだ。

そういうときに、僕は旅をすることになるが、つまりその場合の主目的は「舞台の仕事」や「美術館の展示会」なのであって、僕にとっての旅はほとんどの場合が副産物だ。


旅には人それぞれの流儀があると思う。交通手段からどこで何を食べるかまで、事細かに事前に決めて臨む人もいるだろう。なにも調べずふらりと歩くのが好きだという方もいるだろう。

僕も僕なりに、副産物としての旅をより自分にとって快適なものにするための心得がある。

ひとつ。旅の目的は一つ、あるいは二つに絞るべし。

ひとつ。気になる飲食店や和菓子屋は事前にGoogleマップでチェックすべし。


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旅の目的は少ければ少ないほどいいと思っている節がある。慣れない土地であれもこれもと見るべきもの、訪れるべき場所を設定すると、体力のない僕はすぐに疲れてしまう。

一度疲れてしまうともうダメで、その後の何も楽しめなくなるし、疲れたこと自体がその旅の印象になってしまうため思い出としても味気ない。

慣れない土地で、なるべく疲れずに、自分の見たいものにたどり着く。そのために設定すべき目的地はひとつ。これが最高だが、ふたつまでなら許容しようと思っている。

大体において僕が設定する目的地は、美術館か、和菓子屋か、骨董屋・器屋のたぐいだ。それ以外のご当地グルメとか、観光名所とか、そういったものは旅程に入れない。

「あそこにいくならここを見るべし」みたいなのは、ほとんど行かない。自分の見たいものだけを見にいく。

ずいぶん頑固な、融通の効かない、偏屈な旅の仕方だなあと我ながら思うけれど仕方ない、そういう旅のやり方が僕には合っているのだから。

有名観光地にはほとんど行かないから、友人や知り合いとご当地トークで盛り上がることが苦手だ。だって、みんなが行ってるところに、行ったことがないのだもの。


旅の目的地をひとつに絞るのは何がいいかというと、自由時間がたっぷり取れるということだ。

たとえば、その度の目的地が美術館の展示ひとつだとしよう。その展示会さえ見れたら、その旅は成功だし、僕としては大満足なのだ。

だから、朝早く移動する必要があまりない。大体11時くらいに現地に着ければよいか、となる。自然と、朝起きる時間もそこまで早くなくて済む。つまり、疲れない。

美術館を目的地として旅に行ったとして、お目当ての展示を見るとしても、ルーブル美術館規模だったら話は変わってくるが、日本の美術であれば1〜2時間あれば大抵の展示も隅々まで見ることができる。

11時に現地に着いて、帰りの電車が20時発だとして、現地に滞在できる9時間のうちの1〜2時間で主目的は達成される。残りの7時間はどうなるかといえば、これがすべて自由時間となる。

自由時間は、まさに自由な時間だ。何をしてもいい。

ぶらぶら町を歩いてもいいし、ベンチに座ってぼんやりしてもいい。喫茶店に入って本を読んでもいいし、散歩の途中で名画座を見つけたらポンと飛び込んで映画を一本観たっていい。何をしてもいいのだ。

当然、明るいうちから飲んでもいいし、落ち着いたカフェで溜まってる事務仕事を片付けてもいい。なんなら、今回の旅を堪能し尽くしたと思った時点で帰りの時間を早めて、18時の新幹線に乗ってもいいのだ。

知らない土地で、どうしても見たい何かを一つ二つ見た後に、何をしてもいい自由時間を手に入れる。これが僕にとっての旅だ。


さて、一日をぶらぶらと過ごしていたら当然腹が減る。そういうときにどこに入るか、何を食べるかで、その度の満足度は格段に変わってくる。

そこで僕は、旅に訪れる土地の、自分の好きそうな食事処だけは、事前にチェックをするようにしている。

チェックをしても、必ずそこへ行くということではない。タイミングが合えば寄ったら楽しそうだな、ぐらいの気持ちで調べておく。

調べる手段は必ずGoogleマップ。それ以外の方法はほとんど使わない。Googleマップで検索できる店構えの写真、店内の写真を見れば、自分の好みの店かどうかはだいたい察しがつく。これは僕の、ひとつの特技だ。

だから、舞台の仕事でよく訪れる、大阪梅田・中津、名古屋、博多あたりは、Googleマップにピン押しで保存している飲食店がたくさんある。

たくさん保存してあるからこそ、チェックはしたけど行ったことがない店もたくさんある。でも、それでいいのだ。その店に行くことが目的なのではないからだ。お腹が空いたと思ったときに、サッと立ち寄れる場所のストックを持っておくことが僕にとって大事なのだ。


飲食店の選び方にしても偏屈なので、たとえば名古屋で手羽先の店はひとつもチェックしてないし、博多で鉄板餃子やモツ鍋の店もまったく保存していない。

ご当地のものをどうしても食べたいという欲求は、僕にはほとんどなくて、観光客向けに平板化された「ご当地グルメ」を食べるよりむしろ、その土地にしかない、変わったスタイルを貫いている個人経営店に足を運ぶのが好きだからだ。


こういう旅の仕方をするものだから、察しの通り人と旅をすることができない。旅の好みが合うような人がほとんどいない。それはもう、なんというか、諦めているところがある。

ときどき「休みのタイミングが合うから箱根にでも行くか!」となる友人がいるが、なぜこれがうまくいくかというとお互いに酒飲みだからだ。

温泉よりもなによりも、美味しくお酒を飲むことが第一の目的になる。この場合は美術館に行ったりもしない。行きのロマンスカーからビールを飲む。その時点でふたりして、旅の目的をほとんど達成したようなものだ。

けれど、その友人にしたって、普段の僕の旅の仕方はきっと楽しんでもらえないだろうと思う。


旅の価値観がぴったりと隅々まで合う人を見つけられたらもしかして、その相手とはいろんなことが上手くいくのかもしれない。

とはいえ、僕はひとり旅がとても気に入っているけれど。


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