私の好きな短歌、その24
蒲公英(たんぽぽ)のたけて飛ぶ日となりにけり夢殿のべの蜜蜂(みつばち)のこゑ
植松寿樹、歌集『庭燎』(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p131)より。
法隆寺の夢殿の実景。実景だからこそ作れた歌だと思う。実景でなければ、飛ぶ蒲公英の種と夢殿と蜜蜂という取り合わせは、理想的過ぎて作り物めいている。が、実景として一首を味わえば、それこそ夢の中にいるような陶然とした心地になる。旅に来て、名所で、こういう完全な光景を見、かつ歌に詠めるのは幸せだ。
初学者からしてみれば、最後の「こゑ」がなかなかでてこない。「おと」として、さていまひとつだがと悩むはずだ。二句の「たけて」もでてこない。知っている言葉が適切なときに記憶の海から飛びだしてきてくれるか、それが問題だ。そして作歌にはそれが必要だ。
『庭燎(にはび)』は1921年(大正10年)刊行。刊行時、作者は32歳。作者生没年は1890年(明治23)ー1964年(昭和39)享年75歳。