私の好きな短歌、その23
防水の利(き)かなくなりしわがリユツク背負ひつづけて今日また背負ふ
松村英一、歌集『落ち葉の中を行く』(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p129)より。
作者は山登りが好きだったという。この歌集が刊行されたのは昭和44年(1969年)であり、このとき作者は80歳なので一首はおそらく70代の作ということになる。長年ともに山に登ってきたリュックなのだろう。気に入ったものを使い続けるというこだわりと、今までの経験から、まだこのリュックで大丈夫だと判断している余裕を感じることができる。高齢者としての自分を嫌が応でも引き受けて行かなければならないということの暗喩でもあろう。淡々とした味わいがある歌だ。
『落ち葉の中を行く』は1969年(昭和44)刊行。作者生没年は1889年(明治22)ー1981年(昭和56)享年93歳。