私の好きな短歌、その14
みどり児のねむるつり籠つりかけし庭木の上を烏の飛びぬ
岡麓、歌集『宿墨詠草』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p365)。
「夏日永し」中の一首。「みどり児」とは作者の孫。前の歌に「木のかげにつり籠(かご)つるし幼児(をさなご)の眠(ねむり)をまもる母はわが子ぞ」とあることから知れる。わが娘がその子、つまり孫を見守っているのを、父/祖父である自分が見守っているという、幸せな光景である。その上を「烏」が飛んだ。不安定な吊籠のなかの孫を思うと、なにか不穏である。私が住んでいるところに近い海辺では、油断して弁当などを食べていると鳶がそれを目がけて滑空してきて、弁当箱が手から飛ばされることがある。一首のカラスは何を見ながら上空を飛んでいるのか。通り過ぎただけなのか、旋回しているのか。平安には、それがいつか崩れるという不安が背中合わせなのだ。
1939年(昭和14年、作者63歳)作。作者生没年は1877(明治10)ー1951(昭和26)享年75歳。