私の好きな短歌、その44
朝に夕に苦しみ過しし一年のある日道路に蜆買ひけり
宮柊二、『小紺珠』より。(『宮柊二歌集 p63』岩波文庫)
1948年(昭和23年)刊行の歌集『小紺珠』の中の、「一年」という題を掲げられた一連の中の一首。「一年」とは、敗戦からの「一年」という意味。一首の前には「直かりし国の若きら面振らず命を挙げて修羅に死にゆきぬ」という歌がある。戦争、敗戦の衝撃はまだ生々しく、苦しい時代だった。その一方で家族との生活があり、戦地ではない安心もあっただろう。地獄のような戦線での生活が終わり、道路に蜆を買う生活が始まったのである。万感の思いがこめられている。
おそらく1946年(昭和21年)の歌。当時作者35歳。作者生没年は1912年(大正1)ー1986年(昭和61)、享年75歳。