私の好きな短歌、その5
夕まぐれ音をひそめて帰り来し子どもは雨に濡(ぬ)れてをるかも
島木赤彦、歌集『切日』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p20』)。
「赤罌粟の花」中の一首。罌粟が咲くのは初夏という。なぜ子どもが音をひそめて帰ってきたのかは分からないが、子どもは濡れている。情景は明白だが、すべてが明らかではないという魅力がある。子供は雨に濡れてしょんぼりしているのか、あるいは何かに夢中で雨に濡れることを気にしていないのか、はっきりしない。写真のように景色をそのまま切り取っていて、受け手の心理状態によって感じ方が変わる。そのことが歌に深みをもたらしている。
1913年(大正2年、38歳)作。作者生没年は1876(明治9)ー1926(大15=昭元)享年51歳。
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