私の好きな短歌、その52

雨ながら今日も暮れたりわが宿の裏道通ふ牛の足音

 土田耕平、『青杉』より。(『現代日本文學大系94 現代歌集』筑摩書房 p79)

 初句「雨ながら」、自分でも使ってみたい。自分なら、「雨のなか」とか「雨降りて」とか「しぐれつつ」などを使うだろうが、この「…ながら」の、意味は通るが少し古風な感じがいい。解説の年譜によれば、この「わが宿」は、伊豆大島での療養生活の時に暮らしていた宿のこと。牛の足音や鼻息が雨の夕暮れに聞こえてくるという、牛がまだ日常生活の範囲内にいる時代ならではの風情のある光景だ。牛は、大切にされ可愛がられてもいるが、それは家畜として人間に利用されるためだという、根源的な悲しさをまとっている。悲しく魅力的な歌材だ。

 『青杉』は1922年(大正11年)刊。刊行時作者28歳。作者生没年は1895年(明治28)ー1940年(昭和15)、享年46歳。

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