私の好きな短歌、その53

澄む月をそがひにしつつ立ち戻る渚の砂にひとつわが影

 土田耕平『青杉』『現代日本文學大系94、現代歌集p81』

 「そがひ」は後ろ、背面。現代では意味が通じないかもしれないが味のある響きで捨てがたい。「立ち戻る」が唐突なようだが海から帰るという場面を的確に表し、砂浜ではなく「渚の砂」と言ったことで、粒状感のある写真のような画が見えてくる。
 優雅とも言える四句までから一転、孤独を感じさせる結句が心をとらえる。それにしてもこの、明るい水辺を一人歩くという場面、懐かしく、若き日を感じさせるのはなぜだろうか。私だけの個人的な感情なのかもしれないが。

 『青杉』は1922年(大正11年)刊。刊行時作者28歳。作者生没年は1895年(明治28)ー1940年(昭和15)、享年46歳。

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