私の好きな短歌、その10
あしたより日かげさしいる枕べの福寿草の花皆開きけり
島木赤彦、歌集『柿陰集』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p80)。
「恙ありて 二」中の一首。大正15年1月、胃がん発症を確認してから作られた歌。病を知った上で、朝の光の美しさ、それを受けて一斉に咲く福寿草に感じるものがあったのだろう。初春に咲くという可憐な花である。
作者の病という背景を知らなければ、素直な喜びが明るく表現された歌である。作者の病を知っていれば、そこに悲しみが混ざる。いずれにしても美しい歌だ。この二ヶ月後、3月27日に作者は亡くなった。
結句にかけて「はなみなひら」というあ行音の繰り返しが、花が咲いていく様子を思わせる。福寿草を手元に置いてみたいという気にさせられる歌だ。
1926年(大正15年=昭和元年、作者51歳)作。作者生没年は1876(明治9)ー1926(大15=昭元)享年51歳。