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存在しない小説のワンシーン 書いてみた(2024.10.28)
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就労証明書の一番下の欄に書かれている文字が見えづらいので私は老眼鏡をかけたのだが、それでも文字が読めないので、しまいには就労証明書の書式をホームページからダウンロードしてそれをパソコンの画面上で拡大して見ることでようやく問題を解決する事が出来た。
それに記入して正面のデスクに座るTさんに渡さなければならない。が、渡せない。なぜならTさんは忙しそうにしているからだ。Tさんは40代の女性で、会社の事務や経理を担当している。ずっとやる気がなかったが、最近になって急にやる気を出して仕事と生活にやたら前向きだ。そして相変わらずやる気がなさそうな私に対してちょっと上から目線で接してくるのでうんざりする。
そんなTさん、いつもやたらと大きな音を立ててキーボードを叩いている。カタカタカタカタと彼女がキーボードを叩いている時は他の色々な音が阻害されてしまう。カタカタカタカタ・・ジャングルの奥で求愛している奇抜な色の鳥みたいだ。
私がそうして地球の裏にあるであろうジャングルに思いを馳せていたら、同じく鳥みたいな顔した上司が部屋に入ってきて、何やら小さな声で囀っている。そんな小さな声だとTさんの求愛キーボード音に掻き消されて何言ってるか聞き取る事ができないですよ。
ジャングルとは程遠く、ここは酸素が薄い。ああ、外に出たい。外に出て自由に羽ばたきたい。そしてガジュマルの枝の上で羽を休めたい。胸いっぱいに濃密な酸素を取り込みたい。
そんな事を考えていたら、鳥みたいな顔の上司が急に腰を上げて、Tさんの方にふらふらと歩いていった。まるで求愛の音に吸い寄せられるように。
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色んな方が参加されている「存在しない小説のワンシーン」という企画です。楽しそうだったのでのっかってみました。あおさんの企画です。
小説と言いながらだいぶ実体験に基づいているのでずるい感じがしますけど、よろしくお願いします。