見出し画像

SOML ③ 中島みゆき - 慟哭

 みなさんは、人生をかけて聴き込んでいくような曲に出会ったことはあるでしょうか。音楽鑑賞を趣味としていると、度々そのような曲に出会うことがあると思います。出会い方はまちまちで、街中で流れている曲であったり、初めはそこまで好きではなかった曲がいつのまにか、かけがえのない曲になっていくこともあります。出会い方はどうであれ、その人の人生を象徴する曲、つまり「Songs of my life」(SOML)です。

 中島みゆきの慟哭は間違いなくSOMLの一つです。この曲が収録されているベストアルバム「大吟醸」が、父の車の中で流れていたことがこの曲との出会いでした。工藤静香が歌ってるイメージが強く、この曲があまり好きではないという方もいらっしゃるかもしれません。そんな方も是非一度中島みゆきバージョンを聴いてみてください。工藤静香バージョンとはまた違った、本来の表情が見えると思います。この曲の好きなところは沢山ありますが、次の3つに絞ってご紹介したいと思います。

①中島みゆきのボーカル
②激しさと哀愁を醸し出すトラック
③リリックの凄み

①中島みゆきのボーカル
 工藤静香バージョンと中島みゆきバージョンで一番違うところはなんでしょうか。当然、彼女らの歌い方、声質になります。
 工藤静香バージョンはあっさりしているというか、淡々と歌い上げでる印象で、淡白です。もちろんこの歌い方がベストな曲もあると思います。しかし、慟哭という曲では違います。
 中島みゆきバージョンのボーカルは感情が溢れすぎていて、あまりに素晴らしいです。自分の親友であり、好きな人が別の人とパートナーになってしまったという、ありがちですが、心が沈むテーマの曲を見事に表現しています。失恋するまで自分の恋心に気づかなかった主人公の「慟哭」がわかるでしょう。
 中島みゆきは徹頭徹尾、荒っぽくボーカルを当てていて、曲中の主人公の人となりがなんとなく伝わってきます。おそらく大雑把で、自分の気持ちにも不器用な人なのでしょう。悲しすぎる恋の気づき方をしてしまった彼女が、揺れる気持ちを押し殺しているような激しい心の揺らぎを感じます。
 曲中を通して、彼女は各音の頭を強く発声することで荒っぽさを、細かなフレージングで心の揺れを表しています。また、多用されているガナリも荒っぽさと心の動揺を伝える良いエッセンスになっていますよね。心理描写、情景にあった素晴らしいボーカルパフォーマンスです。

②激しさと哀愁を醸し出すトラック
 インストの方に注目してみましょう。激しいラッパ、ドラムス、どこか仄暗いギター。ブリッヂからサビにかけて入ってくるとコーラスもこの曲の哀愁をさらに強調しています。しかし、激しさがありつつ派手さはない印象で、あくまで中島みゆきのボーカルの特徴を支えるだけに留まっています。そのおかげでトラックとボーカルが喧嘩をしていません。
 特に素晴らしいのはイントロの演奏です。荒っぽいながらどこか影を感じるギターとまさに慟哭のようなラッパを、激しい叩き方ながらも規則的なドラムスが繋いでいて、この曲がどういう歌なのか音のみで説明しています。
 インストの構成自体もよくあるJ-POPの構成をしており聴きやすいです。形式ばっているからこそ、その他の中島みゆきの曲と比べてもこの曲ならではエッセンスや工夫を感じることができます。

③リリックの凄み
 この曲の歌詞を聴いて、素晴らしいと思わない人はいないでしょう。傷ついた心に対するアプローチはさまざまで、人となりによって変わるものだと思います。自分の外面、内面それぞれに対して攻撃的になるその様子は、トラウマに遭遇した人がよくなるもので、その心の動き方、揺れ方を等身大のリリックで表現しています。「偉そうに」と相手を強く拒絶する一方、「皮肉だね」と傷ついた自分をさらに追い込むような自傷的な一面を見せます。また、「そんな人どこに隠してたの」のように、絞り出すような弱い心も見せており、この二面性があるからこそ主人公はあやふやにならず、私たちが彼、彼女を等身大に感じる理由になるのです。

 いかかでしたか。長々と語ってきましたが私が勝手に感じ取ったものを勝手に表現しているので、音楽が詳しい方から怒られてしまうかもしれません。ですが、私のこの曲に対する愛情や情熱を少しでも感じ取っていただき、一人でも聴いていただく方が増えるのであれば幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!