【神奈川県議会・合区問題】人口偏在が著しい県郡部から選挙制度改革の声を上げる意義を考える
神奈川県議選の選挙区変更を巡って、県西部に位置する足柄上地域1市5町の議会議員有志41人が異議を唱え、2022年5月22日に開催した「南足柄市・足柄下郡の強制合区について考え声を上げる会」。
集会で議員有志は、今回の選挙区変更によって南足柄市と足柄上郡(山北町、開成町、大井町、松田町、中井町)が引き剥がされることに憤り、県議会に対して公職選挙法の「遵守」を求める声明文を読み上げた。
声明文読み上げの直前に会場からの意見を求められ、筆者はこの声明文では不十分であり、選挙区を定める公選法の「人口割り」の「改正」が必要ではないかと発言した。
人口の偏在が著しい神奈川県の郡部から選挙制度改革の声を上げる意義を考えた。
最大の被害者、南足柄市
今回の「強制合区」の一番の被害者は何と言っても南足柄市。
同市はもともと県議選で単独選挙区を持っていたが、人口減少を理由に前回2019年4月に行われた県議選で足柄上郡(定数1)と「強制合区」された経緯がある。
前回選挙では自民分裂の激しい選挙戦になったことを神奈川新聞が伝えている。
【県議選南足柄市・足柄上郡選挙区】生き残り懸け舌戦 | 選挙 | カナロコ by 神奈川新聞
なぜ、「下郡」と合区?
これだけの〝血〟を流したにもかかわらず、今度は足柄上郡ではなく足柄下郡(箱根町、真鶴町、湯河原町)と合区せよ、というのだから憤る気持ちは分かる。
ではなぜ今回、南足柄市と足柄下郡(定数1)が合区されたかというと、足柄下郡の人口減が進み「4万4千人」を下回ってしまったから。
この「4万4千人」という数字が今回の神奈川県議選・合区問題を考える上で大きなポイントになる。
公選法15条2項では、一つの選挙区を決める際に都道府県の総人口を県議の定数で割った数の半数以上にするように決められている。
つまり、神奈川県民の人口約922万人を県議会議員の定数105で割ると約8万8千人になり、この半数である4万4千人に満たない選挙区は隣接する他の市町村と強制的に合区されてしまう。
足柄下郡は人口約18万人の小田原市(定数2)とも接しており、県議会の「議員定数等検討委員会」では同市との強制合区も検討されたようだが、曲折を経て南足柄市との合区が決まった。
三つの政令指定都市に議席6割超
人口減少が止まらない県西部では公選法15条2項の規定が変わらない限り、「数の論理」が優先され選挙区を強制合区する「不条理」な状況は続く。
人口減少は日本のどこの地方でも抱える問題だが、人口の偏在が著しい神奈川県ではその影響がさらに色濃く映し出される。
なぜなら神奈川県は全国で唯一、政令指定都市を3市(横浜、川崎、相模原)も抱えているからだ。
横浜市は全国の市町村で最も人口が多い370万人都市。川崎市は今後も人口増加が見込まれ、相模原市は合併によって巨大化した。
横浜市の選挙区は18あり、定数は41議席。川崎市は選挙区7に対して定数18議席、相模原市は選挙区3に対して8議席ある。(議席数は区割り変更後の数)
この3市の議席数の合計は67議席になり、県議全体(105議席)の6割以上を占める。
今の公選法で大丈夫?
政令指定都市は、大都市行政の効率化などを目的に道府県から多くの権限を委譲されている。
このため、県と市の「二重行政」がたびたび議論され、県内では川崎市を筆頭に神奈川県から独立を目指す「特別自治市構想」なんかも持ち上がっている。
特別自治市構想 神奈川県と3政令市、見解の溝埋まらず | カナロコ by 神奈川新聞
↑のような報道を見る限り、県内の政令指定都市においては県行政の存在感はかなり薄いように思える。そうならば、県議全体の6割超が政令指定都市に集中している意義も問われなければならない。
さらに、県議1人当りが抱える面積を考えるとその「不条理」は如実になる。
例えば、足柄上地域1市5町の面積を足し合わせると約380平方キロになる。
これに対して横浜市の面積は約437平方キロ。
現状、足柄上地域は1議席のため、1人の県議でこの380平方キロの地域をカバーすることになるが、横浜市(定数41)の場合は単純計算すると議員1人当り約10平方キロで済む話になる。
つまり、政令指定都市における県行政と県議の存在感に加え、人口の偏在がここまで進んでしまった神奈川県において、今の公選法が定める選挙区の設定方法では現状に対応し切れていないのでは、との疑念が残る。
「人口割り」ありきに声を
しかし、5月22日に議員有志41人が主催した「声を上げる会」では公選法の「遵守」を県議会に求める声明文を読み上げて幕を閉じた。
それは、なぜか?
声明文では、公選法第15条7項にある「選挙区を設ける場合には、行政区画、衆議院議員の選挙区、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならない」との文言を引用して、「法律を遵守すべき県議会が、それを無視したことについても強く抗議し、法律遵守に立ち返るよう求める」と記している。
議員有志の主張は、「歴史的にも行政的にもつながりが強い南足柄市と足柄上郡を引き剥がすな」というものであるが、県議会の議員定数等検討委員会の議事録(9ページ)を読むと、政策調査課長が判例と公選法第15条8項の解釈を示し、議員の定数配分については「人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票価値が平等であることを強く要求している」と答弁していることが分かる。
つまり、このような「人口割り」ありきの法律の解釈や建て付けを変えない限り、人口減少が続く地域ではこれからも「強制合区」の「不条理」に晒されることになる。
今回、議員有志が声を上げたことは最大限尊重したいが、その内容は次回選挙だけを見据えた〝近視眼〟でもある。
政令指定都市を3市も抱え、人口偏在が顕著な神奈川県の地方議員だからこそ、「人口割り」ありきの公選法が現状に即していないという「不条理」に声を上げる必要があったのではないか。
もちろんそれは、郡部に選挙区を持つ県議や首長、国会議員にも言えることだが・・・。
【神奈川県議会・合区問題】「南足柄市・足柄下郡の強制合区について声を上げる会」に参加/その「声明文」で十分なの?/公職選挙法改正には踏み込まず