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LOCAL TRIBE vol.10 デザイナーと故郷の関係(繊研新聞2024年9月)

地元で初となる正規取扱店

 岡山県出身のファッションデザイナーは多くありませんが、僅かながら業界のど真ん中で活躍している若手の方々がいます。その一人ひとりがシーンで存在感を増していると感じる此のほど。一方、出身地である岡山県には彼ら彼女らのブランドの取扱店が不在で、実際に見て触れる機会すら無いケースがほとんどです。かねてよりこうした現状に幻滅を覚えていましたが、今秋より岡山県出身の西坂拓馬氏が手がける「kujaku(クジャク)」が岡山市内のセレクトショップ「VICICA(ビシカ)」で取扱いが始まりました。今回は、同ブランドの紹介と共に、デザイナーと故郷の関係性について私見を書きたいと思います。

kujakuの取扱いをスタートし たVICICA(ビシカ)の店主森氏はデザイ ナー西坂拓馬氏の旧友。

 東京で育まれたブランド

 西坂氏が「kujaku」を立ち上げたのは地元の服飾専門学校に在籍していた時で、その頃にプラグマガジンに載ってもらってからのご縁があります。その後、西坂氏は専門学校を中退して単身上京。資金やコネクションもゼロ、業界のイロハも知らない状態から活動をスタートしました。上京して開業したセレクトショップ「Clique Tokyo ( クリークトウキョウ )」で寝泊まりしながら服作りを続け、コレクションを引っ提げて全国を行脚。ヨーロッパにも持ち込み、とにかく作ったものを見てもらうことに躍起だったと言います。並行して、彼のお店にはモデルやスタイリストなどを目指す若者が集うようになりました。西坂氏のパッションに引き寄せられるように、上昇志向の若者たちのコミュニティが形成されていく様子を私も目の当たりにしています。こうした仲間に支えられながらブランドとしての素地を整え、「kujaku」を本格始動した14年から今年で10年目を迎えました。日本の被服職人の繊細な感性と技術を結集した服づくり、それらを追求することで宿る細部のディティールこそがブランドの根幹である『日本人らしさ』の所以。現在では、全国の硬派なセレクトショップを中心に販路を広げ、「服好き」から支持を集める独自のポジションを確立しています。
「ステートメントを殊更に発さず、パブリックな存在であること。ファッションデザイナーというよりも、クリエイターでありたい。ただ、作り手としてのエゴよりも、いまは守るべき家族やスタッフのためにという思いの方が強いです。そういった意味でも、地元岡山での新たな取扱いは嬉しいことではありますが、宿願だったという訳ではありません。『VICICA』を始めた旧友である森氏とのリレーションシップの一つの形だと思っています」

kujakuデザイナーの西坂拓馬氏

 デザイナーに請われずとも

 「kujaku」の成長に「岡山」は何ら関与しておらず、デザイナー自身が地元に頼ることも、特別な意識を向けることもありませんでした。有名無名に関わらず、岡山県出身デザイナーが作った服や地元ショップのオリジナルアイテムなどを積極的に取り入れるのが私の流儀(無理にでは無くもちろん着たいから)ですが、これはごくごく私的な拘りに過ぎません。しかし、スポーツや芸能などと同じように、地元出身者を応援する機運が服飾の分野でも高まることを望んでいます。それは、「同じ地元」という共通項がもっとワークすれば、お互いと地域にとって良き反応を生んでくれる気がするからです。

kujaku by Takuma Nishizaka [official home page]
Clique Tokyo ( クリークトウキョウ )
VICICA


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