オムレツのおはなし
洋食屋にとって欠かせない料理のひとつが卵料理だ。近頃は「懐かしい!」とオムライスを注文する人が多いそうだが、この店はオムレツも自慢だ。
それにオムレツは、料理人の腕が問われるメニュー。もちろん、ほかの料理もそうではあるが。
さて。
外側はシワひとつなく、スーッとなめらか。だが、ひとたびスプーンを入れると……とろ〜り溶け出すのだ。
ちなみに、この店はベシャメルソースでいただくスタイル。だから、ナイフ&フォークではなくソーススプーンを出してくれる。
決して“玉子焼き”になってはいけない。あくまでも外はふんわり、中はとろ〜り。これが代々、受け継がれてきたオムレツなのだ。簡単には真似できない職人技が光るからこそ、名物料理と称されるのである。
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その技をちょっと覗き見すると……
熱したフライパンに澄ましバター(バターから乳固形分と水分を分離したもの)と、塩・胡椒で味付けした卵4個を投入する。
すぐに菜箸でクルクルとリズミカルに混ぜ、そう、スクランブルエッグをつくるようにクルクル、クルクル、クルクル……と、めくるめく官能の世界が繰り広げられていく。
底側がクレープ状になったときが、第一のタイミング。フライパンを一瞬、火から離して、手前側から卵を返す。あくまでも慎重に。けれども、勢いは忘れてはならぬ。そうして反対側も同様に、最後まで強火のまま。だが、決して火を通し過ぎず、ふわっとエアリー、はかなく仕上げるのだ。
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そのままでも充分なほど濃厚な味わいだが、そこにコクがあってまろやかなベシャメルソースをオン。ソースには小エビを添えれば、プリッとした食感が小気味よいアクセントを奏でる。
付け合わせはマカロニサラダ、トマト、生野菜。ほどよい酸味のドレッシングをかければ……ほら、極上のひと皿のできあがり。
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そうそう、この店のオムレツは卵オンリー!
フランスの料理書『ラルースガストロノミック』に出ているオムレツ・ナチュール(卵だけのシンプルオムレツ)に則った正統派。
ひと口頬張れば、やみつきのオムレツ、どうぞご賞味を。