ふたり……そしてもうひとり
さきほどまで、あるレストランにいた。
そこに、一組の男女があらわれた。
本の町ならではの、いつもの光景通り、そのふたりも本がたくさん入った紙袋を抱えていた。わたしはわたしで、いつものようにビールのグラスを傾け、気に入ったノートに万年筆を走らせている。
ふと、あちらの席を見ると、女性の美しい横顔が目に入った。
「きれい……」と感じた途端、「あ、女優の●さんだ」と認識した。華美な装いではなく、むしろ控えめな様子ではあるのに、凛としたオーラが漲っている。
男性は……どなただろう……? 聞き耳を立てたわけではないが、ひそひそと話す内容から、映画関係、仕事の間柄なのだと思った。もちろん、それ以上は詮索しない。私は私で、自分のしたいことに没頭した。
帰りしな、ふたりが目に入った。
いや、思わず、男性の声に振り返り、姿を見てしまったのだ。
先ほどの男性ではない。
いつ入れ替わったのか……著名な人物だ。正直、ちょっと興奮した。よもや、ここで遭遇するとは。
ふたりが付き合っているとかそうでないとか、ではなく。
はじめの男性が仲介したとかそうでないとか、ではなく。
本の町で、このふたりが逢瀬しているということが、ちょっと素敵だな、と思った。