春に読みたい、宮澤賢治のことば
たのしい太陽系の春だ
みんなはしったりうたったり
はねあがったりするがいい。
心象スケッチ『春と修羅』「小岩井農場」
見えない星を見る
まずは「水仙月の四日」というおはなしの一節をお読みください。
たとえ昼でも、そこに星が存在していることに変わりはありません。宮澤賢治は、しばしば見えないものを見ようとしますが、それは、いま見えないものが見えているとき……星であれば夜に、よく見てそのものを理解していれば可能です。
さらに賢治は、月を見てりんごの匂いを感じたなどと書くことがありますが、それも、りんごの匂いをよく知っている者なら、月を見て「りんごのようだ」と思ったときに、その香りを思い起こすことはできるでしょう。
賢治は、経験や知識などの記憶と目の前の事物を組み合わせて、想像を膨らませることが得意だったのです。わたしたちもまた、野原を歩きながら頭上に光っているであろう星々の存在を感じ、足もとの地面が地球という惑星の一部であると認識するとき、太陽系という大きな世界の一員である自分をイメージすることができます。
春は待ち遠しいものですが、そもそも季節は、地球が太陽のまわりを一年で一周しているために起こる現象なのでした。さて、春の野で、跳ねたり歌ったり、風に揺れたりしている無数の生きものたちといっしょに、「ほほっ」と笑ってみましょうか。
(『自然をこんなふうに見てごらん 宮澤賢治のことば』(澤口たまみ著)より)
宮澤賢治のおはなしには、自然を見る魅力的な視点が詰まっている。
岩手在住で賢治の後輩でもあるエッセイストが、その言葉を紐とき、自然をより楽しく見るための視点を綴る。
著 澤口たまみ
定価 2090円(本体1900円+税10%)
発売日 2023年2月13日
四六版 208ページ
内容紹介
⽊の芽の宝⽯、春の速さを⾒る、醜い⽣きものはいない、⾵の指を⾒る、過去へ旅する…
⾃然をこんなふうに感じとってみたいと思わせる、宮澤賢治の57のことばをやさしく丁寧に紐といた⼀冊です。
「銀河鉄道の夜」も「注⽂の多い料理店」も、宮澤賢治は、おはなしの多くを⾃然から拾ってきたといいます。それらの⾔葉から、⾃然を⾒る視点の妙や魅⼒をエッセイストの澤⼝たまみさんが優しくあたたかな⽬線で綴ります。
読めばきっと、こういうふうに⾃然を感じとってみたい、こんなふうに季節を楽しみたい、と思わせてくれる一冊です。
著者紹介
澤口たまみ
エッセイスト・絵本作家。1960年、岩手県盛岡市生まれ。1990年『虫のつぶやき聞こえたよ』(白水社)で日本エッセイストクラブ賞、2017年『わたしのこねこ』(絵・あずみ虫、福音館書店)で産経児童出版文化賞美術賞を受賞。 主に福音館書店でかがく絵本のテキストを手がける。絵本に『どんぐりころころむし』(絵・たしろちさと、福音館書店)ほか多数。宮澤賢治の後輩として、その作品を読み解くことを続けており、エッセイに『新版 宮澤賢治 愛のうた』(夕書房)などがある。賢治作品をはじめとする文学を音楽家の演奏とともに朗読する活動を行い、 CDを自主制作している。岩手県紫波町在住。