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食べた相手の得意技をコピーして、自分のものにするマンガみたいな生き物

食べた相手の得意技をコピーして自分のものにする。そんな「星のカービィ」のような? 『ドラゴンボール』の魔人ブウのような? 生きものが海にいることをご存じですか? 『海のへんな生きもの事典 ありえないほねなし』(著:ひとでちゃん、イラスト:ワタナベケンイチ)から、そんなユニークな生きものの話をお届けします。

触れるだけで毒針が飛び出す超特殊器官

猛毒のアカクラゲ ©nikkytok / Adobe Stock

クラゲは刺す! というのは周知の事実でしょう。でもクラゲってぷよぷよしていて目立つ棘などもないし、見た目はあまり危険そうじゃない…なんで刺されるの? と思いませんか? 

さらに、クラゲやサンゴ、イソギンチャクは同じ刺胞(しほう)動物門の仲間ですが、どうして仲間なのかを説明するのが難しい。この2つの疑問を一気に解決してくれるのが、〝刺胞〞という超特殊器官です!

刺胞動物門に属する生きものは刺胞をもっているのが最大の特徴。簡単にいうと刺胞は毒針のことなのですが、ただの毒針ではありません。胞(ほう)、つまりカプセルの中に入っているのです。カプセルの外側には外からの刺激を感知する小さな棘がついています。

イラスト/ワタナベケンイチ

この起爆スイッチのような棘が押されると、収納されていた刺糸(しし)と呼ばれる毒針がビックリ箱のように発射されます。刺胞1つはわずか1㎜ほどですが、触手にびっしりと配置されています。そのため触手に触れると次々と刺胞から紐つきの毒針が発射され、面ファスナーのようにベッタリと張りついてしまうというわけです。

刺胞動物はこの刺胞を使って身を守ったり、餌をとったりします。もし触手が体にくっついてしまった場合、無理に取ろうとしたり真水などをかけたりするのはご法度! 

たとえクラゲ本体から触手がちぎれていても、起爆スイッチが押されるとさらに刺胞攻撃が降り注ぎますよ!

似て非なるクラゲ

クシクラゲの仲間 ©Dmitri Portnov / Adobe Stock

クシクラゲの仲間は本当にクラゲにそっくり! 半透明な袋状の体で海中をゆっくりと泳ぐ姿はクラゲそのものです。しかし刺胞をもっていません。だから刺胞動物のクラゲとはまったくの別物。櫛板(くしいた)と呼ばれる小さな板を動かして泳ぐので有櫛(ゆうしつ)動物といいます。こんなに似ているのに不思議なものです。


食べた生きものの装備を自分のものに!

イラスト:ワタナベケンイチ

貝殻はとても強力な防御アイテム。生きものがつくる硬い構造物はいろいろありますが、その多くが多孔質といって中に孔がたくさんあいています。それにくらべて貝殻は割ってみても目立つ孔はなく、みっちりと詰まっていて、とても微細な結晶でできていることがわかります。

強いけれど、これをつくるのはやっぱり大変でコストがかかる! というわけで巻き貝のなかには貝殻をつくるのをやめてしまった種類がけっこうたくさんいます。

その代表的なものがウミウシ。海のナメクジといわれるウミウシですが、貝殻がなくやわらかい体が剥き出しなわけですから、どうにか身を守る術がなくてはなりません。そこで編み出したのが、食べたものの能力を装備して使うという(星のカービィみたいな)ウソのような方法。

そのなかで一番メジャーなのは、有毒なカイメンなどを食べることで体内に毒素を溜め込み、食べられにくくする方法です。この方法はほかの生きものでも見られます。

一方で、ウミウシのなかでもミノウミウシの仲間は、ヒドロ虫などの刺胞動物を食べて、その刺胞を(なぜか刺されることなく)抽出して、自分の細胞に組み込み防御に使うなどの離れ業をやってのけます。猛毒のカツオノエボシを捕食するアオミノウミウシは、盗んだ刺胞も超強力です。

アオミノウミウシ

またコピー能力を応用して、食べた海藻から葉緑体だけを取り出して自分の体に配置し、光合成で栄養を得る種もいます。食べた葉緑体の色で体も緑色になるのでカモフラージュにもなって一石二鳥!

いったいどうなっているのでしょう。もう理解不能です。

刺胞を利用する生きもの

クマノミがイソギンチャクと共生している話は有名でしょう。また、ヤドカリが貝殻にイソギンチャクをくっつけていたり、幼魚がクラゲに寄り添って暮らしていたり。海において刺胞は超強力な武器です。ウミウシのように直接的に刺胞を取り込んで使うことはなかなかありませんが、多くの生きものが刺胞を活用しています。


ヘンなことってすばらしい!
宇宙人よりも宇宙人な”ほねなし”のありえない生きざま

内容紹介

「口と肛門が一緒」
「頭から足が生えている」
「体のほとんどが生殖器」
「腕一本から体全体が再生」
「あるとき、自分が2つに分裂」

まさに“ありえない”のオンパレード!
宇宙人より宇宙人な生きもの。それが地球にいる無脊椎動物こと“ほねなし”です。

ほねなしは、背骨がないから姿形も生き方もなんだってあり! 
ユニークな形態や仰天するような生態をもつ海のほねなしの魅力を、親しみやすいイラストをまじえてたっぷりとご紹介します。

最終章では全34動物門をイラストつきで解説。じつは約34に分けられる動物のグループのうち、33はすべてほねなし。つまり、ほとんどの動物はほねなしなのです。

驚くような生きざまの数々に、あなたの動物観も変わるかも!?
めくるめくほねなしたちの奇妙な世界へようこそ!

著者紹介

文・イラスト(part4) ひとでちゃん
1988年、栃木県生まれ。つくば市を拠点とする自然科学教育普及団体「地球レーベル」代表。ヒトデ研究者。新潟大学理学部生物学科卒業後、ヒトデの研究をすべく東京大学大学院理学系研究科へ進学。博士前期課程を修了し、公益財団法人水産無脊椎動物研究所に。退所後、海の生きものの魅力を伝えるための活動を開始。イベント講師や情報発信、イラストの制作などを精力的に行う。

イラスト ワタナベケンイチ
1976年2月18日生まれ。イラストレーター。右利き。1996年より立花文穂を師事。1999年西瓜糖にて初個展。2000年H Bファイルコンペ藤枝リュウジ大賞受賞。雑誌、広告、演劇ポスター等のイラストや、絵本、書籍などの装画・挿画を手がける。主な書籍に『暇と退屈の倫理学』國分功一郎著(太田出版)、『ギケイキ1・2・3』町田康著(河出書房新社)、『まいにちをよくする500の言葉』松浦弥太郎著(PHP研究所)など多数。

ひとでちゃんが『ありえないほねなし』ができるまでを語った出版秘話の記事もぜひご覧ください!