【読書感想文】都市同士の共食いが生む緊張感『移動都市』
都市が都市を食らうという、衝撃的な設定のSF。移動都市ロンドンが獲物を捕らえるシーンは、まるでスペクタクル映画を見ているかのようだった。
主人公のトムは、史学ギルドの見習い。しかし、ある出来事がきっかけで、都市の最下層部であるガットへと送られてしまう。ガットは捕獲された都市が解体される場所。暗く、暑く、悪臭が漂うその環境は、まさに地獄絵図だ。
ガットでトムは、憧れのギルド長、サディアス・ヴァレンタインと出会う。なぜかトムの家族を知っているというヴァレンタイン。トムにとってヴァレンタインとの出会いは、運命を大きく変えるものだった。中盤以降はトムと彼の仲間である少女ヘクターの友情を中心に進む。最初は反目し合っていた二人だが、共に困難を乗り越えるうちに、固い絆で結ばれていく。
本作の魅力は、壮大な世界観と、そこに生きる人々のドラマが絶妙にバランスが取れている点だ。移動都市というSF的な設定でありながら、登場人物たちの感情や葛藤は非常に感情移入できるものだった。
また、物語のスピード感も本作の見どころの一つ。都市同士の戦いや復讐劇、逃亡劇など、次々と展開されるアクションシーンのおかげで途中で中だるみすることがない。特にクライマックスに向けた展開は圧巻で、ページをめくる手が止まらなかった。