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【読書感想文】たった23分で激変する価値観の行方『23分間の奇跡』

一見シンプルな物語の中に、教育、国家、自由という重大なテーマを詰め込んだ野心作。物語は、ある小学校に赴任してきた新任の女性教師と生徒たちとの間で起こる、たった23分間の出来事を描いている。

ある日小学校に赴任してきた新任の女性教師。本作は、彼女が赴任初日に、担任するクラスで起こした衝撃的な「社会実験」を軸に展開する。彼女は生徒たちに、「規律」の名の下に次々と不条理な要求をしていく。理不尽な指示に戸惑いながらも、生徒たちは女性教師の要求に従っていくのである。

本書の見どころは、わずか23分という短い時間で、人間がいかに簡単に同調し、差別や抑圧を受け入れてしまうかを鮮やかに描き出している点だ。生徒たちは最初こそ戸惑うものの、次第に与えられた「新しい秩序」に順応し、中にはそれを利用して権力を振るう者すら現れる。青い目の生徒は特権を享受し、茶色い目の生徒は差別され、いじめの対象になっていく。そして最も衝撃的なのは、わずか23分でクラス全体がこの「新しい価値観」を内面化してしまうことだ。

この物語を読んで、人間の同調性の恐ろしさと、それを利用する権力の危険性を痛感した。本書に示されたエピソードは極端な例かもしれないが、現実社会でも似たようなことが起きているのではないかと考えさせられる。教師や親、為政者の言うことをただ鵜呑みにするのではなく、常に「なぜ?」と問い続けることの大切さを、本書は教えてくれる。

同時に、教育の役割とは何かという問いも突きつけられる。この「授業」は非人道的で危険なものだが、彼女の意図は生徒たちに「考えること」を教えることだった。彼女は最後に、この23分間の出来事が「実験」だったことを明かし、生徒たちに深い反省を促す。そして、ナチス・ドイツの台頭や人種差別など、現実の歴史の中で起きた悲劇と重ね合わせ、「なぜそんなことが起きたのか」を考えさせられた。

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