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【読書感想文】正義の境界線はどこにあるのか?中山七里が問う、心揺さぶる社会派ヒューマン・ミステリー『護られなかった者たちへ』

物語は、東日本大震災から4年後、仙台市内で全身を縛られたまま放置され餓死させられるという凄惨な連続殺人事件が発生したことから始まります。被害者は福祉保健事務所の職員であり、事件は生活保護制度の欠陥に迫る社会派ミステリーとして描かれています。

本作品の主要なテーマは、生活保護制度に対する批判的な視点です。生活保護制度は、貧困層が生活するために必要な支援を行う制度です。社会のセーフティーネットとして、かけがえのない役割を担っている生活保護制度ですが、実際の運用ではやはり少なからず問題を抱えています。作者は、生活保護制度が抱える問題点を描きつつも、役所側の職業倫理や公私の葛藤についても考えられるよう配慮しています。また、物語は宮城県警捜査一課の刑事と元模範囚の2人の目線で進行しており、それぞれが抱える問題や過去を描くことで、社会派ミステリーとしての深みを増しています。

中山七里氏の『護られなかった者たちへ』は、単なるエンターテインメントとしてのミステリーを超え、現代社会の矛盾や人間の葛藤を巧みに織り交ぜた作品となっています。社会的なテーマに興味を持つ読者や、人間ドラマを重視する読者には特におすすめの一冊です。


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