【読書感想文】禁忌の英雄譚、舞台に甦る!『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』
多崎礼氏による大河ファンタジー小説の第三弾。舞台は、英雄テッサの名を口にするだけで罪に問われる抑圧的な社会のレーエンデ国。本作は、双子の兄弟アーロウとリーアン・ランベールが、隠された英雄の真実を追い求める姿を描いています。
男娼の俳優アーロウは、兄リーアンが、禁忌とされるテッサの生い立ちを聞いて回っていることを知りました。この野心的な計画に、アーロウは当初懐疑的でしたが、次第に兄の熱意に引き込まれていきます。
本作の見どころは、芸術による社会変革の可能性を探求している点です。かつての英雄テッサの物語は、単なる過去の出来事ではなく、現在のレーエンデ国の人々のアイデンティティと深く結びついたもの。しかし、その真実は権力者によって意図的に歪められ、隠蔽されてきました。故にリーアンの劇は単なる娯楽ではなく、抑圧された歴史の真実を暴き、人々の意識を変える起爆剤の役目も担っています。
このように、本作では、禁忌とされる歴史を掘り起こす行為を通じて、抑圧された民族のアイデンティティーの回復という重いテーマを扱っています。レーエンデ人の誇りであるテッサの物語を舞台化するという挑戦的な試みは、読み進めるうちに単なる芸術活動を超えた意味を持つことが明らかになります。
芸術の力、兄弟愛、そして歴史の真実。本作は、これらの要素が絡み合いながら、静かに、しかし確実に社会を変える物語でもありました。
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