【読書感想文】朴訥な虔十が作り上げた心の楽園『虔十公園林』
本当に久しぶりに、心の深い部分に触れる温かい物語を読んだ。
虔十は、他の子供たちから笑われながらも、いつもニコニコと明るく振る舞っている。彼の行動は、周囲の期待に応えるものであり、特に親に対する忠実さが印象的だ。ある日、彼は「杉の苗を700本買ってほしい」とお母さんに頼む。この一言が、彼の人生を大きく変えるきっかけとなるのだ。
そんな虔十が苗を植える姿には、真剣さと誠実さが溢れている。正しい間隔で苗を植え、まっすぐに育てようとする姿勢には、まるで彼の朴訥さと誠実さが現れているかのよう。近所の嫌な男、平二との対立も物語のまた胸を打つ。平二の意地悪に対して、虔十は一生懸命に耐え、最終的には自分の信念をまっすぐ貫き続けるのだ。
そして終盤、虔十はチフスに罹って亡くなってしまう。これには衝撃を受けた。善良な心を持つ虔十が、最終的に不幸な結末を迎えるのは、何とも切ない運命ではないだろう。しかし、彼が植えた杉の木は、周囲の子供たちに遊び場を提供し、虔十の存在は決して消えることはない。
この物語から感じ取れるのは、何気ない日常の中での小さな幸せや、周囲との関わりの大切さだ。虔十のように、内気で控えめな人でも、自分の信じた道を歩むことができるというメッセージが、心にずしんと響いた。
私事だが、ある日、私は仕事で行き詰まり、やる気をなくしていた。そんな時、ふとこの物語のことを思い出した。虔十のように、ただ目の前のことに一生懸命に取り組めば、きっと道は開けるのではないか。そう考え、再び仕事に取り組んでみると、不思議とやる気が出てきた。
宮沢賢治の作品は、自然や人間の心を繊細に描くことで知られているが、「虔十公園林」もその例外ではない。物語の中には、自然との調和や、他者との共存の重要性がしっかりと表現されている。虔十が植えた杉の木が地域の人々にとっての心の拠り所となる様子などはまさに、その証左ではないだろうか。