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【読書感想文】内面の葛藤、悟浄が見つけた希望の光『悟浄歎異 ―沙門悟浄の手記―』

天竺を目指す三蔵法師の旅の一員である悟浄の目を通して語られる物語。悟浄が三蔵法師と共に天竺を目指す旅の中で、悟空や八戒とは異なる、独自の苦悩と懊悩を抱えながらも、その心の奥底に微かな光を見出す物語が繰り広げられます。

この物語の見どころは、悟浄の内面描写にあります。彼は悟空の行動力や八戒の享楽性とは異なり、懐疑的で思索深い性格の持ち主。旅の途中で出会う様々な困難や挑戦に対し、彼なりの思索を巡らせ、その中で自身と向き合い、苦悩します。特に、幻想的な鬼との戦いの章では、悟浄が自らの内面と対峙し、ニヒリズムの淵から微かな希望の光を見つけ出す様子が印象的です。

この作品を読んで、個人的に感じたのは、中島敦が描く悟浄のキャラクターが、ただの架空の人物ではなく、私たち自身や私たちが知る誰かの姿を映し出しているかのようだということです。彼の苦悩や成長は、私たち自身の生き方や考え方について深く考えさせられるものがありました。

最終的に、悟浄が旅の終わりに辿り着く心の平穏とは、彼自身の内面の変化を通じて得られたものでした。悟浄の旅は、一見すると外への旅のように見えますが、実際には自己の内面への深い旅でもあります。


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