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【読書感想文】世界中のエキゾチックな魅力を一級の娯楽としてしたためた冒険譚『80日間世界一周』

カジノに出入りする紳士、フィリアス・フォッグ氏は、ある晩常連のカジノクラブの仲間たちに、たった80日間で世界を横断してみせよう!と全財産を元手にした賭けをぶちまけます。大見えを切った手前のフォッグ氏は、付き人のパスパルトゥーを従えて、すぐさま慣れ親しんだ日常生活からドーバーを目指します。危険な場所を通過しながら、船や列車、像でもなんでもいかなる交通手段を使って、挫折を乗り越え80日という時間との勝負に挑む冒険譚。世界一周の名の通り、ロンドンや中国、インドに香港、日本を始め、アメリカやリバプールなどなど、異国情緒あふれる旅路の中で、象に乗って女性を助けたり、アメリカの線路で山賊と戦ったりと、驚くべき事件が満載です。

私の思う本書の面白さとは、フォッグ氏がわずか80日間という期限を区切って世界一周できるという賭けを(大金をかけて)引き受けたことです。そして当然のことながら、彼は期限内に達成するために数学的な頭で旅程を正確に計するわけです。一度心を決めたフォッグ氏は、硬直した日常生活を完全に断ち切って「旅行」というモードに切り替わるのですが、日常生活との対比が本書の妙の一つだと感じています。

本書は新しい鉄道の登場で世界的に観光が盛り上がっていた1873年に書かれたもの。他の多くのヴェルヌの作品と同様に探究心に満ちていて、世界のさまざまなエキゾチックな魅力を一級の娯楽品として提供した内容であり、大人になって読み返してみると、忘れていたドラマチックな結末に今一度惚れ惚れすることになりました。


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