【読書感想文】環境問題のテーマを通して、社会への責任や可能性を考えさせられる一冊『グスコーブドリの伝記』
『グスコーブドリの伝記』は、宮沢賢治の代表作の一つで、架空の地域イーハトーブを舞台に主人公ブドリの生涯を描いた物語です。ブドリは幼い頃に冷害と飢饉によって家族を失い、苦労しながらも勉強と仕事に励みます。やがて火山局の技師となり、火山の活動を制御してイーハトーブの人々の暮らしを守ります。しかし、冷害が再びイーハトーブの地を襲うとき、ブドリは火山を爆発させて温暖化させる計画を思いつくのでした。ところが、計画を実行するためには、誰かが犠牲になって火山に残らなければならないのです・・・
この本の主要なテーマは、自然と人間の関係と、科学技術の発達への期待です。賢治は自身も農業指導や気象観測などに携わっており、自然現象に対する深い関心と知識を持っていました。この物語では、自然の猛威にさらされながらもひたむきに生きる人間の姿や、科学的な手段で自然をコントロールしようとする試みが描かれます。賢治は科学技術に対して楽観的な見方をしており、それが人間の幸福に貢献すると信じていました。しかし、同時に科学技術には限界や代償もあることを示しており、それがブドリの自己犠牲という形で表現されています。
この本のおススメポイントは、賢治独特の美しい言葉と想像力です。賢治はイーハトーブという架空の世界を創造し、そこに様々な不思議な事象や生き物を登場させました。例えば、飛行船や潮汐発電所などの先進的な技術や、カルボナード火山などの奇妙な性質を持つものです。これらは賢治の豊かな想像力の表れであり、読者を魅了します。また、賢治は物語に詩的な言葉や比喩を散りばめており、その美しさや深さに感動します。例えば、「青ぞらが緑いろに濁り、日や月が銅あかがねいろになった」という表現は、火山噴火による大気汚染を描写したものですが、同時にブドリやイーハトーブの運命を暗示しているかのように思えました。
特に私の心に残ったのは、グスコーブドリが炭焼きの新しい技術を研究する過程や、町の人々との関わりを深めていく場面です。彼の情熱や献身的な姿勢にやりきれないものを感じました。また、「全ての生き物や自然と共に生きる」という賢治のメッセージは、現代における環境問題や持続可能性の観点からも、非常に重要な意味を持っています。
まとめとして、『グスコーブドリの伝記』は、宮沢賢治の豊かな想像力と独自の言葉の魔法に引き込まれる作品です。環境問題や技術革新のテーマを通して、私たち一人一人が持つ社会への責任や可能性を考えさせられる一冊でした。