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【読書感想文】衝撃の事実が次々と明らかに、心揺さぶる海洋SFの傑作『華竜の宮(下)』

260メートルもの海面上昇という未曾有の事態に直面した人類の姿を描いた、壮大で黙示録的な海洋SF巨篇。本作は、地球温暖化や環境変動の影響を強く受けた未来社会を背景にしており、陸上民と海上民という二つの異なる社会の対立が中核にある。陸地の大半が水没した結果、両者の間には深刻な確執や緊張が生まれ、彼らの関係はますます複雑化しているのだ。この対立は、ただ単に地理的な隔たりから生じているのではなく、文化や価値観の違い、歴史的な背景も絡み合っている。

そんな本作の主人公は、日本政府の外交官である青澄誠司だ。彼は、アジア海域での政府と海上民との対立を解消すべく奔走し、交渉の場でさまざまな困難に直面する。特に、海上民の女性長であるツキソメとの交渉は、彼の運命を大きく揺るがすものとなる。ツキソメは人間の姿を持ちながらも、言語能力が欠如しているという特異な存在で、彼女が脳外科手術を受けて思考と言語を獲得した背景は、彼女の行動や思考を理解するための重要な要素となっている。

全体として、本作は、未来の人類が直面するさまざまな困難や倫理的ジレンマを深く掘り下げた作品である。物語の中で描かれる希望や絶望、愛や憎しみといった感情は、普遍的なテーマであり、誰もが心に響くものである。ぜひ手に取って、その深いテーマに触れてみてほしい。

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