【読書感想文】子供の無邪気さが暴く大人の真実『人の顔』
昭和初期の幻想作家らしい独特の雰囲気を持つ短編。短いながらも詰め込まれた不気味さと奇妙さは圧巻で、まさに夢の中を彷徨うような体験があった。
本作の主人公チエ子は、様々な場所に人の顔を見てしまうという奇癖を持つ少女。この設定だけでも鳥肌が立つほど不気味である。
この作品の魅力は、その幻想性だけでなく、子供の視点を通して大人の世界の複雑さや暗い側面を描いている点にある。チエ子が義母の姦通を暴く場面は、物語のクライマックスとして非常にインパクトもあった。このような純真な子供の無邪気な言動が、大人たちの隠された真実を暴露するという展開は、非常に印象的だ。
物語の中でチエ子が見た「顔」の描写や、それが引き起こす周囲の人々の反応は、非常にリアルに感じられる。まるで自分がその場にいるかのような錯覚を覚えた。夢野久作の描写力と構成力の巧みさが、この作品の魅力を一層引き立てている。
私自身、子供の頃に大人たちが話している意味深な話を聞いてしまい、何となく理解できてしまった時の不安感を思い出す。子供は何でも正直に言ってしまうため、それが大人の世界にどれほど影響を与えるのか考えると恐ろしい。この作品も、そのような子供の無邪気さが中心にあるからこそ、リアリティとファンタジーの狭間を巧妙に描き出している。
この作品を読むことで、子供の無邪気さや純真さが持つ力と、それが大人の世界に与える影響を改めて考えさせられる。夢野久作の独特の世界観を楽しむことができるこの短編は、まさに彼の代表作と言える。