【読書感想文】地球を動かす?人類の存亡をかけた究極の選択『地球移動作戦』
2083年の未来を舞台にした壮大な宇宙SF。超光速粒子(タキオン)推進によるピアノ・ドライブを実用化した人類は、新たに発見された謎の天体2075Aの調査に乗り出しました。船長ブレイド率いる深宇宙探査船がこの天体を観測した結果、24年後に地球に壊滅的な被害をもたらすことが判明します。
この危機に対し、様々な対策案が提唱される中、天体物理学者の風祭良輔は、娘の魅波と息子の沙亜羅との会話をヒントに、驚くべき地球救済計画を発案します。彼の提案する「アース・シフト案」は、地球そのものを移動させるという大胆なものでした。これに対し、ACOM(人工意識コンパニオン)を使った大人気クリエイターであるジェノアPは、人工意識(AC)に人類の精神を受け継がせるという「セカンド・アース案」を提唱します。世論はこの二つの案に二分され、魅波は父の代理として公開討論会に出席する決意をします。
物語の中で特に印象的なのは、ピアノ・ドライブやACOMといった未来技術の描写です。これらの技術は、単なるSFのガジェットにとどまらず、物語の核心に深く関わっています。例えば、魅波が伯父のブレイドから受け継いだACOMのマイカは、彼女のパートナーとして物語を通じて重要な役割を果たします。
また、「アース・シフト」のプロモーションの冒頭部分で語られる科学技術史における愉快なエピソードの数々も見逃せません。これらのエピソードは、物語にユーモアと深みを加え、読者を引き込む要素となっています。
地球の未来を賭けた壮大な計画とそれに伴う人々の葛藤や絆、そして山本弘の緻密な世界観とキャラクター描写が光る本作は、SFファンにとって忘れられない一冊となるでしょう。