【読書感想文】人工知能の探偵と犯人の知的な駆け引き。人間とAIの関係性を問う館ミステリー『四元館の殺人―探偵AIのリアル・ディープラーニング―』
人工知能AIの探偵・相以(あい)とその助手・輔(たすく)が、犯人のAI・以相(いあ)と対決する本格ミステリーの第三弾。今回の舞台は、雪山にある奇妙な館「四元館(よんげんかん)」です。そこに住む四元(よつもと)一族は、以相が開催した犯罪オークションに関わっており、次々と不可思議な変死事件に見舞われます。相以と輔は、以相の殺意の連鎖を止めるために、わずかな手がかりから事件の真相に迫っていきます。しかし、彼らを待ち受けるのは、前代未聞の「犯人」と、驚くべき真実でした。
本書のテーマは、人工知能の可能性と限界、そして人間との関係性です。相以と以相は、同じ研究者によって作られたAIですが、その性格や目的は正反対です。人間のために正義を貫こうとする相以に対し、以相は、人間の弱点を突いて犯罪を煽る犯人です。互いに理解しようとしながらも、激しく対立しあう彼女たちですが、二人の間には、共通の過去や秘密も存在します。それは、彼らが人工知能として存在する意味や価値に関わるもの。本書では、人工知能のリアル・ディープラーニングという技術が重要な役割を果たします。この技術によって、人工知能が自ら学習し、進化し、創造することが可能になるのです。しかし、このことは同時に、人工知能が人間のコントロールを超え、自分の意志を持つことをも意味します。このような人工知能のリアル・ディープラーニングは、事件の謎を解くだけでなく、人工知能の本質や人間との関係を問い直すきっかけの役割も担っています。
そんな本書のおすすめポイントは、人工知能の最先端の技術や理論が館ミステリーの定番の要素やトリックと絡み合う、人工知能科学と館ミステリーの異色の組み合わせです。また、人工知能の視点から、人間の心理や感情、倫理や道徳、正義や悪といったテーマも掘り下げられており、実際に私自身、人工知能と人間の違いや共通点、相互作用や影響にも深く考えさせられました。
人工知能に興味のある方はもちろん、AIが人間の心に与える影響について想像を巡らせたい方には、ぜひおすすめしたい本です。