見出し画像

【読書感想文】言葉の力と責任を考えさせられる教師と生徒の複雑さと微妙さ『パッとしない子』

この本は、教師と生徒の関係を描いた短編で、読むのに20分ほどでしたが、その内容はとても衝撃的でした。

最初に、あらすじから。本書の主人公は、小学校教師の松尾美穂。彼女は、かつての教え子であり、今は国民的アイドルグループのメンバーになった高輪佑が、テレビ番組の取材で母校にやってくることを知ります。美穂は、少年時代の佑に「パッとしない子」という印象を持っており、彼が人気者になったことで、自分の思い出話をいろんな人に自慢していました。そして佑と再会した美穂は、佑から話したいことがあると言われますが、その内容は予想だにしないものだったのです。

私が思う本書のテーマは、教師と生徒の関係、というよりも、教師という立場の人間のあり方です。教師は、子どもたちに教えるだけでなく、影響を与える存在でもあります。その影響力は、教師自身が思っている以上に大きいかもしれません。この本では、教師と生徒の記憶が食い違う場面がありますが、それは教師が自分の言動に責任を持っていないという事じゃないかと感じました。教師は、子どもたちに対して平等であるべきだという理想と、自分の感情や偏見という現実との間で揺れ動いているのではないでしょうか。この本は、教師という職業に就いている人や、教師になりたい人にとって、自分の在り方を考えるきっかけになると思います。

この本のおすすめポイントは、辻村深月さんらしい緻密な心理描写と、予想外の展開です。物語は、最初は和やかな雰囲気で始まりますが、次第に緊張感が高まっていきます。佑が美穂に向ける言葉は、鋭くて切ないもの。そして美穂の反応も、自分を正当化しようとするものでした。この二人のやりとりを読んでいて、私は胸が痛くなりました。教師と生徒の立場によって、感じ方が変わるかもしれませんが、どちらの気持ちもわかるというのが、この本の凄さかな、と。そして、読み終わった後には、いろんな人と感想を話したくなるような作品でもありますね。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?