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【読書感想文】時空を超える雁の童子、賢治の幻想世界『雁の童子』

須利耶夫妻が縁あって引き取った雁の童子を中心に、砂漠の古寺院での不思議な体験が描かれる短編です。父親が童子を連れて沙車大寺を訪れた際、壁画に描かれた姿が童子と酷似していたという展開は、読者の想像力を掻き立てます。

本作の見どころは、宮沢賢治独特の幻想的な世界観と、西域への憧れが巧みに融合している点です。仏教思想を背景に、現実と非現実の境界を曖昧にしながら、人間の存在や輪廻転生といった深遠なテーマに迫っています。

物語は簡潔な構成でありながら、豊かな想像力と哲学的な深みを内包しています。宮沢賢治の他作品同様、自然と人間、現実と幻想の融合が見事に描かれており、読後には静かな余韻が残ります。

西域の風土や仏教文化への造詣の深さも本作の魅力です。砂漠の風景や古寺院の様子が生き生きと描かれ、読者は遠い異国の地へと誘われます。同時に、作者の仏教への深い理解と、それに基づく人生観が随所に垣間見えます。

現実と幻想が交錯する独特の世界観、そして人間の魂や輪廻に対する深い洞察など、本作は宮沢賢治の文学世界の奥深さを堪能できる作品です。

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