【読書感想文】冤罪を解く鍵は、完璧な記憶力『完全記憶探偵エイモス・デッカー ラストマイル【上下合本版】』
特殊な能力を持つ探偵が古い事件の真相に迫るミステリー小説。
完全記憶能力を持つFBI捜査官エイモス・デッカーは、死刑執行直前の囚人メルヴィン・マーズの事件に関わることになった。マーズは20年前、大学フットボールのスター選手だった頃、両親殺害の容疑で逮捕された人物である。殺害容疑で死刑執行が行われる5分前、突如現れた「真犯人」によって処刑は中止となる。デッカーはこの展開に興味を抱き、同僚とともに20年前の事件を掘り下げていく。
本作の見どころは、主人公デッカーの驚異的な記憶力が捜査にもたらす影響だ。彼は目にしたものを完璧に思い出せるため、些細な矛盾や不自然な点を見逃さない。例えば、マーズの両親の遺体写真を見た際、父親の腕時計が左手につけられていることに違和感を覚える。普段は右手だったはずなのに、なぜ左手なのか。この違和感が新たな捜査の糸口となり、やがて事件の真相へと繋がっていく。
実はデッカー自身も妻と娘を殺された被害者。そんな彼の視点から描かれる捜査の過程はには、引き込まれずにはいられない。マーズの両親には複雑な過去があったことが明らかになり、事件の背景にはマーズ自身も知らなかった闇が潜んでいた。そして最後に明かされる真相は、衝撃的でありながら説得力がある。
本書を読んで強く感じたのは、記憶というものの不思議さと、そこから生まれる正義の形だ。デッカーの完全な記憶と、マーズの曖昧な記憶。そして、事件に関わった人々の隠された記憶。それらが複雑に絡み合い、やがて真実へと収束していく。その過程で、記憶は時に残酷で、時に救いともなる。