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【開業者インタビューVol.4】商いと暮らしの中間点、生き方として選んだ“カフェ店主”という在り方-『カフェ ガトネロ』-

須坂市では小布施町や高山村、各自治体の商工会などと連携のうえ、これから創業される方や創業間もない方への支援事業を行っています。こうした取り組みの中で、やまじゅうも、須坂市のみならず広域を対象に、開業や事業拡大を目指す方へのサポートに取り組んでいます。

今回お話を伺ったのは、小布施町にある『カフェ ガトネロ』の店主・塩澤耕平さん。2017年に地域おこし協力隊として小布施町に移住した後、コワーキングスペース『ハウスホクサイ』や、浮世絵師・葛飾北斎専門の美術館『北斎館』などいくつかの事業に携わりながら、複業でカフェ開業の計画を進めてきた人物です。複業を決めたきっかけや開業までの道のり、オープンから今までの様子をお聞きしました。


ヨーロッパ式のカフェに憧れ、週2日のカフェ店主に

――以前は【利用者インタビュー】にもご協力をいただきありがとうございました。店名はイタリア語で「黒猫」という意味があると教えていただきましたが、改めてどのような想いが込められているのでしょうか。

ありがとうございます。私自身猫が好きというのと、新婚旅行でイタリアに行った際、唯一行きそびれたレストランの名前がもとになっています。ベネチア行きの列車で乗り合わせた男性に「美味しいから行ってみるといい」と、教えてもらった店でした。ワクワクしながら訪ねてみると、なんと1ヶ月のロングバケーションをとっていて。そのときはとても残念でしたが、店名を考えはじめたときに、あの自由な感じや、行けそうで行けない憧れのような感覚を思い出し、いいなと思って付けました。

リンゴ畑を抜けてカフェへ。友人の建築士が設計したという特徴的な外観が目を引く

――カフェのコンセプトはありますか?

実は、ガトネロのコンセプトは明文化していないんです。自分の思考や哲学とかなり同一なので、改めて言語にするのが難しくて。まずは自分が満足しているか、次にお客さんを迎え入れる準備ができているか、そのあたりを軸に判断をしています。

塩澤さんが厳選したインテリアや商品が並ぶ店内
猫モチーフの作品も販売されている

カフェの経営は、自分や家族が食べていくための”ライスワーク”ではなく、生き甲斐や暮らし方の延長にある”ライフワーク”として捉えていて。店を継続するために収支を考えるのは大切ですが、利益だけを追求したり、仕事として捉えすぎたりしないよう意識しています。

――「仕事と捉えすぎない」は、まさに複業だからできる働き方ですね。現在の営業スタイルや、ほかのお仕事とのマインドシェアが気になります。

2023年4月のオープン以来、基本は金曜と土曜の週2日営業を続けています。時間は10時から18時。提供しているのはカレーランチと2種類のスイーツ、ほかにコーヒーや紅茶、ジュース、ノンアルコールウイスキーなどのドリンクです。カフェのマインドシェアは、仕事全体の3割くらいを占めるイメージでしょうか。6割が「北斎館」で、ほかの1割で「ハウスホクサイ」やその他の業務をこなしています。収入面でも、良い感じのバランスが取れていると思います。

一つひとつ丁寧に作られるスイーツ
「これを目当てに来店する人もいる」という、かぼちゃのプリン

――塩澤さんにとって、カフェとはどのようなものなのでしょう。

誰が来てもよくて、いつ行っても同じメニューが出迎えてくれる。フランスにあるような、朝から夜までずっと営業しているオープンカフェが私の憧れです。収入の差や身分の差は関係なくて、コーヒー代が払えれば誰でも等しくその場にいられるって、カフェならではだなと思います。だからこそ多くの人の居場所になっていて、赤ちゃん連れもお年寄りも若者も同じ空間で過ごすことができる。そうやって街にいろんな変化が起きていくきっかけみたいなものかなと思います。

ーーさまざまな人が平等に過ごせる場、とても素敵です。今ガトネロにいらっしゃっているのは、どのようなお客様なんでしょうか。

地元の方、観光の方、海外の方、本当にさまざまなお客様にご利用いただいています。
毎週来てくださる常連さんは、周辺の方が多いです。お迎えする時間は大好きな時間です。「SNSを見て来ました」という方もいらっしゃいますし、「かぼちゃのプリンを食べ歩くのが好きで」とか「カフェ巡りは人生の生き甲斐で」とか、人によって来店の理由はさまざまです。
オープンしてから改めて、カフェの面白さを感じています。

カウンターもテーブル席も、お客様が思い思いに過ごせる

足りない視点を補い、使い勝手の良いキッチンを

――2022年の冬にお問い合わせいただいたときには、すでにメニュー開発などを進めていらっしゃいました。「プロ仕様のキッチンを使ってみたかった」とおっしゃっていましたが、当時はどのようなタイミングだったのでしょう。

資金調達なども含め、建築士の友人と一緒に自宅兼店舗をつくる目処が立ったところでした。物価高騰を受けて資金にも限りが見え、改めて内装などを考えているタイミングだったと思います。
カフェの哲学などソフト面を学んだり、飲食店やコーヒースタンドでアルバイトをしたりといった経験はありましたが、キッチンの動線や店内のオペレーションを考えたことはなく、どうしていいかわからなくて。建築士から「キッチンはどういうレイアウトにしたいか」「店内の席数はどのくらいにするか」など聞かれて迷っていたときに、以前から知り合いだった君島さんにやまじゅうのことを教えてもらったんです。

――利用中、特に印象に残っていることはありますか?

建築士とは「レイアウトに無駄がなく、空間の均整が取れているか」を主に確認しつつ、やまじゅうで具体的な厨房設備のアドバイスをもらいました。ひと口にカフェと言っても、提供するメニューによって必要な機材は全く異なります。考えていたメニューを伝えながら、入れるべき機材やそのスペック、配置を検討していきました。

客席からの見え方を意識したり、自身の動線を意識したり。細かなところまで配慮した

当初導入しようとしていたスチームコンベクションオーブンは、実際にやまじゅうで試して意見を聞き、「そこまでのスペックは不要」と判断をしたひとつです。もちろんオープンしてみないとわからない部分もありますが、やはりプロの設備を使って試せる、飲食店経営をしている人たちから直にアドバイスをもらえる、という2点はやまじゅうの魅力だと思います。

――そう言っていただけると嬉しいです。利用に関してハードルになるようなことはありましたか?あるとすれば、どのようにして乗り越えたかもお伺いしたいです。

やまじゅうは利用料金もリーズナブルですし、相談にもフレキシブルに対応してもらい、利用に対してのハードルは特に感じませんでした。あえてあげるとすれば、自分の作る料理や空間がダイレクトに評価される、というプレッシャーでしょうか。
カフェオープンはずっとあたためてきた夢だったので、実際にそれが形になる緊張感と向き合うハードル、みたいなものはあったかもしれません。特効薬のような乗り越え方はなくて、覚悟を決めて進むしかないのかなと思いますね。特に複業の場合は、忙しさや他に収入があることを理由に間延びしてしまうので、ある程度自分で自分を追い込む必要がありました。

(写真:内山温那)

長期的な視点で人生を豊かに、小布施にカフェ文化を育んでいく

――オープンから1年経ち、ご自身の変化や学びは感じていますか?

始める前は、「提供する野菜も肉もドリンクも全て良いものを選びたい。たとえ儲けが出なくても、納得いくメニューを出したい」と考えていた時期がありました。しかし運営していて気づいたのが、たとえ複業でも、商売のための場でなくても、きちんと次につながる利益は出さないといけないということです。

――次につながる利益、ですか。

はい。今まで全く意識していなかったのですが、自分の行動が利益に結びつかないと、面白いくらいにモチベーションが保てないんです。
例えば「このかぼちゃプリン1ホールを10切れにして10人に食べてもらっても、原価にしかならない」とかって考えてしまうと、途端に店に立つのが楽しくなくなってしまう。私が立たないと店はオープンできませんから、モチベーションの維持はとても大切です。まだうまく言葉にできませんが、きちんと美味しいものを提供して利益を上げ、いい空間を作る。この3つをうまく回していかないと、理想のカフェはできそうにないと感じています。

――理想のカフェ実現に向け、まだまだ進化が続いていきそうですね。今後挑戦したいこと、考えている展開があれば教えてください。

料理に関しては永遠の素人で、家庭料理の延長にあるような、ハンドメイドの美味しさを届けていきたいです。そこにコーヒーがあって、素敵なものや人との出会いがあって、心地よい空間があって。それらが組み合わさって特別なものになるのが、カフェの良さだと思います。

これは個人的な感覚ですが、仕事って積み重ねる時間とスキル習得にピークがあると思っていて、それは職種によって異なると考えているんです。例えば前職のIT企業でいえば、次々登場する新しい技術を取得し続けるのは30代がピーク、とか。それに対してカフェ店主は、時間とともにジリジリとスキルが増え、説得力が増していく気がするんですね。人生の最後までジリジリ、しつこく、粘り強く。家族や自分の変化に合わせて営業日数は変わると思いますが、長い目線で経営を続けていきたいです。

(写真:内山温那)

――「街にいろんな変化が起きていくのが理想」ともおっしゃっていましたが、小布施町全体に目を向けてみるといかがでしょうか。

そうですね。必ずしもガトネロがきっかけでとは思いませんが、小布施町がカフェの良い町になったらいいなとは思っています。現に今も、私のような個人の想いによってあるカフェから老舗企業がつくるカフェまで、バランス良く素敵なカフェがたくさんあって。絶妙にポジショニングが違うでの競合することもなく、お客様はそれぞれの好みで選んだり過ごしたりできる。先導者がいるわけではなく、土地柄みたいなものが作用している気がするので、この環境を守り、未来へ繋いでいけたらいいなと思います。


店舗情報

カフェ ガトネロ
住所/上高井郡小布施町小布施2028
営業時間/10:00-18:00
営業日/金・土(詳しくはInstagramの投稿をご確認ください)
Instagram/@cafe_gatto_nero

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Instagram/@suzakayamajuu
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