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「国葬」について

明治憲法のもとでは、国葬令という勅令がありました。勅令というのは、帝国議会が議決した法律ではなく、天皇が直接発する命令・法令を指します。

日本国憲法のもとでは、国会が「唯一の立法機関」(日本国憲法41条)となっていますが、明治憲法のもとでは、立法権は天皇に属していて、帝国議会はそれに「協賛」するにすぎませんでしたから、法律とは別に天皇が発した勅令(明治憲法8条〔緊急勅令〕・9条〔独立命令〕)という法形式が並立していました。大正15年に定められた国葬令(勅令第324号)もその一つです。

戦後、日本国憲法の制定・施行に伴い、明治憲法のもとで通用していた命令については整理が行われました。明治憲法のもとで天皇が発したものであったとしても、内容的にすべてが否定されるべきものではないことから、必要と思われるものについては暫定的に効力を維持するものの、あらためて日本国憲法のもとで「法律」の形で議決することとしたのです。

その根拠となる「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」(昭和22年法律第72号)第1条は、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定で、法律を以て規定すべき事項を規定するものは、昭和22年12月31日まで、法律と同一の効力を有するものとする。」としています。年末まで効力は維持するものの、国会で改めて法律の形で議決しなければ失効する、ということです。この法律に基づき、国葬令は、昭和22年12月31日で失効したことになっています。

国葬令は、天皇・皇族とならんで「國家ニ偉功アル者」についても国葬にすべき場合があるとしていました。日本国憲法のもとで、従来の勅令であっても、内容的に存続されるべきと当時の内閣あるいは国会が判断していたのであれば、憲法に適合的な内容で法律にしていたはずですが、そのような形跡は見受けられません。国葬令は廃止すべきというのが当時の国会の判断だったと評価できるはずです。

もし、現在通用している行政の作用に関する法律を国会が廃止したとします。にもかかわらず、行政組織法を根拠として廃止された内容のルールを政府が実施することは許されないはずです。

法律による行政の原理からすれば、国葬を実施するのであれば、かつての国葬令のように、だれが対象となるのか、だれがその判断をするのか、などが法律で定められていることが必要ではないでしょうか。その法律に基づいて、国葬を実施する、という判断をしてはじめて、「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務」(内閣府設置法第4条第3項33号)として内閣府の所掌事務になるのであって、内閣府設置法が国葬の根拠法となるというのはかなり無理のある解釈といわざるをえません。戦後、吉田茂元総理が先例としてあるのだとされていますが、その際の根拠法は内閣府設置法ではありえません(当時、内閣府なる行政組織は存在していません)。

明治憲法から日本国憲法になり、国会を唯一の立法機関として法治主義が徹底されたのだというのが普通の理解ですから、明治憲法のもとですら、対象や判断主体を定める国葬令という法形式が存在していたのに対して、現行憲法ではこのような法律の根拠は不要だというのは不自然なことではないでしょうか。


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