エッセイはただの日記であってほしい



あまり重たい読書はしたくないので、エッセイの書棚を久しぶりに覗いてびっくりした。自然なタイトルの本がひとつもない。

育児で疲れ果てていた。ストレスで爆発する寸前で、どうにか短時間で発散する必要があって、それ故に本を読むことを選択したのだった。そういうときに読む本は、恋愛小説でもミステリーでも時代物でもない、ただただシンプルなエッセイでありたかった。
しかし、目に入るのは説教くさかったり暗かったり長ったらしいタイトルばかり。ご時世柄、本のタイトルにも目的があるような素振りがないと売れないのだろうか。物事には大抵理由があるのだから、きっとそうなんだろう。それにしてもこれは、と、しばらく呆然としていた。

私が求めていたのは、ただの日記のような、なんでもない日々を書いたエッセイだった。著者の鋭い目線、があってもなくても別に構わない。最も手軽に身軽に誰かになれる、そんなエッセイを読みたかった。60まで生きる方法を知りたいならエッセイで読まずとも良い。今は暗い気分で我慢することにも疲れ果てているから、「夜明けを待って」みたいな、辛いことに耐えてなんとかなろういという趣旨は全くもって気分に反しているし(勝手にタイトル考えただけで特定の著書のことを言っているわけではありません)、長いタイトルでオシャレを気取りたいわけでもない。ただただ生活に寄り添い、自分を今の自分でない何かにしてほしかった。

結局、それに適していたのは、当時流行っているらしかった辻仁成さんの息子との日々を綴ったエッセイだと判断し、2件目の本屋で購入した。これも、フランスで息子さんと2人暮らしをしているということでタイトルにフランスの文字が入っていて作為的な成分を含んではいたものの、内容はまさに読みたかったエッセイで、素晴らしい(まだ全部は読めていません)。どの話もほとんどオチめいたものがなく、教訓めいたものもなく、日常の一部をパツンパツンとハサミで切り取ったような、それでいて各話爽やかに終わっていく様が、辻仁成という作家の力量を感じさせる(こんなこと書くのはおこがましすぎですが)。私は息子の高校卒業式で親バカを全開にする話がすごく好き。ただの通過点でありながら、幸せが詰まっていていい。
おすすめです。

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