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学費免除の直談判に文通での遠恋成就!明治生まれのスーパーウーマン・羽仁もと子【羽仁もと子vol.2】

百年前の東京で暮らし、子育てをしながら雑誌をつくり、自分が理想とする学校を設立したスーパーウーマン・羽仁もと子。明治・大正の、女性は家を守るのが普通だった時代に、彼女はどうやって自分の仕事を成し遂げたのでしょうか。

羽仁もと子の人生をひもとく記事シリーズ。前回では、羽仁もと子の生い立ちを紹介しました。今回は、もと子の青春時代に焦点をあてます。

八戸から東京へ。東京見物に夢中で受験に失敗するもと子

孫たちの教育に熱心だった祖父に連れられて、もと子は6日もかけて八戸からの上京を果たします。

藩士だった祖父は殿様に付き従っていた経験から、江戸―東京の街をよく知っていました。住んでいたことがあるといったレベルではなく、東京中心部の辻や路地までを諳んじているほどで、そこまで詳しかったのは、自分の殿様よりも格上の大名の一行と鉢合わせするのを避けるお役目をしていたからだったそう。

八戸でも新聞をよく読んでいて、東京通で先進的な祖父からの勧めもあって、東京府立第一高女にもと子が入学したのは明治22年(1889年)でした。第一高女が開校したのはその前年。明治時代も半ばを越える頃には、私立・官立ともに女子のための高等教育機関が増えていきました。

欧米に留学していた津田梅子たちが帰国し、女子教育の普及に尽力しはじめた時代にあたり、現在のお茶の水女子大の前身となる東京女子高等師範学校が設立されたのも1890年でした。

もと子が上京し学び始めたのは、女子にも教育機会をつくろうという動きが高まっていたときだったのです。

洋館がつくられ、馬車が行き交い、あたらしい文化に東京が目覚めていく時代の只中でもありました。生来から好奇心の強いもと子は、そんなあたらしいものに満ちている東京見物に精を出してしまい、高女卒業後に入学を希望していた東京女子高等師範学校の受験に失敗してしまいます。

とはいえ、八戸には帰りたくない。東京で勉強を続けたい。

さて、どうしよう――。

学費免除を直談判。仕事をしながら無料で女学校で学ぶ日々


もと子が思い立ったのは、明治女学校への入学でした。かねてより愛読していた『女学雑誌』の編集者でもある巌本義治が教頭を務めるミッションスクールの明治女学校は、日本人の手による女性教育の理想を追求する場となっており、もと子にとってまさに理想の進学先だったのです。

しかし、明治女学校は師範学校と違って私立なので費用がかさみます。郷里に弟妹のいるもと子としては、学費を出してほしいとは祖父に言いにくい状況でした。

もと子は、自分の事情を書いた手紙を教頭の巌本宛てに出し、返事が来ないと見るや、いきなり訪問します。学費を払えないが、働きながら明治女学校で学びたいと直談判をしたもと子。その熱意は巌本の心を動かしました。

学費が免除され、無料で明治女学校に通えるようになったもと子は、『女学雑誌』の原稿にルビをふる仕事ももらえました。それまでの下宿を出て、学校の寄宿舎で暮らし始めます。

勉強に励む傍ら、雑誌の仕事を通じてさまざまな著名人におつかいという名目で会う役得にも恵まれ、もと子はさまざまな刺激を受けます。そのうちに雑誌の仕事もランクアップして、校正の仕事をもらうようになりました。

生来から思索を深めるたちのもと子。学校の暮らしに加え、キリスト教の教会での説教を聞いたり、あちこちで行われる演説を聞いたりと見聞を広げるうちに、信仰や人生の真理について考えを深めていきます。

八戸へ帰省して、そのまま教師として働く日々。それは遠距離恋愛の日々でもありました


女学校の2年生の夏、もと子は久しぶりに故郷・八戸へと帰省します。

乞われるままに地元の小学校で教鞭をとり、そのまま東京の学校には戻りませんでした。

そのうちに、盛岡のミッションスクールで教えていた友人から結婚を機に退職するからと後任をたのまれて、盛岡へ赴任することに。しばらくは郷里で教師として暮らす日々が続きました。

一見すると華やかな東京の生活から離れ、平凡で静かなふるさとの日常に戻ったかに見えたもと子は、文通で恋に落ちていました。東京で知り合った男性と手紙をやり取りするうちに、お互いに気持ちがふくらんでいったのです。関西に暮らすその人と、結婚の意志を固めます。

厳格な祖父に「関西の人が好きになったから結婚します!」なんて言えるわけもなく、先方から祖父に宛てて縁談を申し込んでもらうことになりました。ところが遠い土地の人でもあり、事情を知らない祖父はすげなく断ってしまいます。

慌てたもと子が事情を話すと、孫想いの祖父は「早く言ってくれればよかった」と結婚を許してくれました。こうしてもと子は、教師を辞めて京都へと嫁ぐことになったのです。

つづく

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