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与えられた目標を自分ごとにする ~自己決定理論による外発的動機づけの内部化~

こんにちは。今回は、動機づけ理論の1つである自己決定理論(self-determination theory)を解説します。名称から「自分で決めるとやる気がでる」という理論に聞こえますが、もっと多くの意味が含まれているようです

今日の一言サマリ

与えられた目標も自分ごと化することはできる


参考にした論文

Deci, E., and Richard M. Ryan. 2000. “The ‘What’ and ‘Why’ of Goal Pursuits: Human Needs and the Self-Determination of Behavior.” Psychological Inquiry 11 (4): 227–68.


自己決定理論の概要

自己決定理論は、Edward DeciとRichard Ryanによって提唱された動機付け理論です。この理論の核心は、人間の成長と幸福感のために3つの基本的心理欲求が重要だという考えにあります

基本的心理欲求(Basic psychological needs)

  1. 有能感(Competence):自分の行動が効果的であると感じること

  2. 自律性(Autonomy):自分の選択に基づいて行動していると感じること

  3. 関係性(Relatedness):他者とのつながりを感じること

自己決定理論は、これらの欲求が満たされるときに人々が最も効果的に機能し、動機付けや心理的健康が向上すると主張しています。逆に、これらの欲求が阻害されると、動機付けやパフォーマンスに悪影響を与え、心理的な不調が生じる可能性があるとしています。

内発的動機づけと外発的動機づけの内部化

自己決定理論では、内発的動機づけを活動そのものが楽しく、満足感をもたらす場合に生じると定義しています。人々が自発的に行動する際には、上記の3つの基本的欲求が満たされている必要があります。これらの欲求が満たされることで、個人は積極的に新しいことに挑戦し、学び、成長することができ、内発的な動機付けが高まります。

自己決定理論はまた、外発的動機づけにも焦点を当てています。外発的動機づけは、外的な報酬や罰などの外的要因によって生じるものです。

自己決定理論では、外的動機付けが内面的に統合されうることを説明しています。外的動機付けの内部化は自然なプロセスであり、個人は社会的に求められる規範や価値観を自分自身のものとして内面化し、自律的にそれらの行動を遂行するようになります。

SDTでは、外発的動機づけが異なるレベルで内面化されることにより、以下のような異なる調整スタイルが生まれます。

  1. 外的規制:外部の報酬や罰によって動機付けられる行動。個人は行動の価値を認識せず、純粋に外的な要因に従って行動します。

  2. 取り込み:外部の規制が内面的に取り込まれた状態ですが、行動はまだ完全には自律的ではなく、内的なプレッシャーや罪悪感などによって動機付けられます。

  3. 同一化:個人が行動の重要性を理解し、価値を見出すことで、行動がより自律的になります。この段階では、行動が個人のアイデンティティの一部として受け入れられます。

  4. 統合:行動が完全に自己の一部として統合され、他の価値観や目標と調和している状態。外的に始まった動機付けが、完全に自律的で自発的な行動に変わります。

自己決定理論は、内部化のプロセスが成功するためには、上記の基本的心理欲求(有能感、自律性、関係性)の満足が必要であると主張しています。
特に自律性がサポートされることで、外的な規制や価値観を個人が自由に受け入れ、それを自己の一部として統合することが可能になります。
関係性と有能感も、規制を理解し、それを実行する能力を高めるために重要です。
これらの欲求が満たされる環境では、規制は単なる外的なものではなく、個人の内的な価値観や目標として受け入れられ、統合的な自己調整が促進されます。


実践への示唆

ビジネスの現場では、今回の知見をどのように活用できるでしょうか。

外的報酬が内発的動機づけを下げてしまうアンダーマイニング効果が有名ですが、ビジネスの世界では外的な動機づけと切り離された仕事はほとんどないでしょう。
今回の自己決定理論は、外発的な動機づけを内部化し内発的動機づけを促進する条件を示した点で有用性が高いと言えるでしょう。

この外発的動機づけの内部化は、「やらされ感」と「自分ごと化」というビジネス課題にも糸口を与えそうです。
基本的心理欲求を満足させ、会社・上司から与えられた目標(外発的動機づけ)を内部化することができれば、やらされ感の軽減と自分ごと化の促進につながることが期待できそうです。


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