部下との関係性は感情で作られていく
今日は上司と部下の関係性が、感情の影響を受けるというお話です。ビジネスの場面では感情表現は好ましくないと捉えられることが多いですが、感情は上司ー部下の関係性を決める重要な要素なのです。
今日の一言サマリ
関係性は感情によって揺れ動く
参考にした論文
Cropanzano, Russell et el., 2017, "Affective Events and the Development of Leader-Member Exchange"
関係性が作られる3段階
この論文では、上司と部下の関係性をLMXという概念で説明しています。LMXとは「上司と部下の交換関係」という意味ですが、ここでは平たく「上司と部下との1対1の関係性の質」と捉えることにします。
この関係性はつぎの3段階で作られていくと言われています。
役割分担…新しいメンバーがグループに参加した段階です。リーダーが新しいメンバーの能力を評価します。
役割形成…メンバーがグループのタスクを実行します。この段階で、無意識のうちに上司ー部下の関係性がIn-groupとOut-groupとに分化していきます。能力があり上司に忠実なメンバーがIn-groupになり、そうでないメンバーがOut-groupになります。下品な言い方をすれば、ボスのお気に入りとそれ以外に分かれていくというイメージです。
ルーチン化…チームのタスクがルーチン化し、In-group、Out-groupの傾向が強化されていきます。In-groupは上司をより信頼し、仕事にコミットしていきます。Out-groupは上司に不満を持ち、チームを去りたがるようになります。
各段階で感情が果たす役割
Cropanzanoは、先行研究をレビューすることで、自身の「情緒的イベント理論」とLMX理論とを統合し、上司ー部下関係が作られる3つの段階で、情緒的イベントの
果たす役割を明らかにしました。
1.役割分担
この段階では、上司の感情表現がメンバーに伝染し、その後の関係性に影響を与える「アンカーイベント」となります。
わかりやすい例では、上司が喜びを表現するとそれがメンバーに伝染して関係性の質を高め、怒りや怖れ、悲しみを表現すれば、関係性の質を低めます。
面白いのは、怒りや怖れの原因がチームの外部に向けられたときは、関係性の質を高める働きがあることです。身も蓋もないですが、「あいつらムカつくよな」という感情がメンバーに伝染することで上司とメンバーの関係性がよくなる、というのはなんとなく想像できます。
2.役割形成
この段階では、上司と部下の感情の影響はより双方向になり、お互いに影響を与え合いながら「同調」します。そして同調の度合いが高い(同じタイミングで喜ぶなど)ほど、関係性の質が高まります。
怒りや怖れなどのネガティブな感情が同期されたときは、役割分担のときと同様にその原因が外部に向けられたときはより質の高い関係性につながります。
3.ルーチン化
この段階では、感情がIn-groupとOut-groupとで異なる効果を生み出します。In-groupとOut-groupの分化が高いとメンバーが認知したとき、In-groupにいるメンバーは上司に感謝し、関係性の質を高めます。ひいきされたメンバーに特別感が生まれる、と言えばわかりやすいでしょうか。
一方のOut-groupは不平感を感じ、リーダーに対して怒り、嫌悪、軽蔑といった否定的な感情を抱きます。結果として関係性はさらに悪化します。感情が関係性の分化を強化する働きをするのです。
実践への示唆
最後に本稿のアイディアをビジネスの場でどう生かせるか考えてみましょう。
一つには、上司は自身の感情の表現が、部下に与える影響を自覚する必要があります。
ポジティブな感情を共有することは一般的に部下の感情をポジティブにし、上司ー部下の関係性をよいものにし、部下のパフォーマンスを高めます。怒りの表明をする時には、その影響を予測してそれでも表明するべきかどうか、を判断するべきでしょう。
役割形成以降の段階では、感情表明の効果はより双方向になります。部下の感情表明が上司や同僚に影響し、同調していきます。チームに楽しんでいる人が多ければ、みんなが楽しい気持ちになる可能性が高まるのです。
自分のポジティブな気持ちを表現することで、チームをポジティブな雰囲気にすることができる、これも一つのリーダーシップの形ですね。
本稿では、感情が上司ー部下の関係性に与える影響について解説してみました。人間は感情を持つ生き物です。ビジネスの場面でも感情の影響を軽視せず、うまく付き合っていきたいですね。