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なにが個人-職務適合を決めるのか

こんにちは。今回は、個人-職務適合(Person-Job Fit、以下P-J Fit)の先行要因を説明します。

今日の一言サマリ

前向きなマインドセットが適合感につながる


参考にした文献

Yu, K. 2013. “A Motivational Model of Person–Environment Fit: Psychological Motives as Drivers of Change.” Edited by Amy L. Kristof-Brown. Organizational Fit: Key Issues and New Directions. 246 (January): 19–49.

松井希望. 2021. “P-E Fitの先行要因と効果に関する研究のレビュー.” 早稲田大学大学院 商学研究科紀要 93: 25–46.

Keane, Andrew, Kibum Kwon, and Junhee Kim. 2024. “An Integrative Literature Review of Person–Environment Fit and Employee Engagement.” Journal of Management & Organization, February, 1–30.



先行要因の研究が少ないP-J Fit理論

これまでのP-J Fit理論では、適合が高まると仕事満足度が向上し、離職意向が低下するなど、成果に関する研究が中心であり、適合がどのようにして形成されるのか、その具体的なメカニズムや何が適合を規定するのかという先行要因については研究が進んでいません。
そんな中、以下で3人の研究者が文献レビューの結果導き出したP-J Fitの先行要因を見ていきます。

Yu(2013)の場合

Yu (2013)は、PE Fit(Person-Environment Fit)の先行要因として、個人が環境に適応しようとする動機付けを明確にし、これらの動機がどのようにPE Fitに影響を与えるかを説明しています。このモデルは以下の5つの心理的動機に基づき、PE Fitを個人が能動的に管理しようとするプロセスとして捉えています。それぞれの動機に関連する具体的な行動や認知プロセスも含めて説明します。

1. 一貫性(Consistency)への動機

人は自分の態度や信念、行動の一貫性を保とうとする傾向があり、この一貫性を保つために環境に適応しようとします。例えば、自己一貫性理論やバランス理論に基づき、PE Fitが高いと感じることで、自分と環境の整合性を保つことができ、自己認識と一致した行動を取ることができます。

2. 快楽(Hedonism)への動機

快楽主義の観点から、P-E Fitはポジティブな感情状態を得るための手段と見なされます。個人は快適で幸せな状態を維持するために、環境との適合を求め、快適さを妨げる要因を避けようとします。この動機は、自分の欲求と環境との間に不一致がある場合にその違和感を解消し、ポジティブな感情を維持するために役立ちます。

3. 不確実性の低減(Uncertainty Reduction)への動機

不確実性を減らしたいという動機は、環境内の他者との価値観や目標の一致(価値一致)や、仕事上の要求と自分の能力の適合(要求-能力の適合)を通して得られます。例えば、組織や同僚との価値観の一致により、他者の意図や行動を予測しやすくなり、仕事における不確実性を軽減できます。

4. コントロール(Control)への動機

自己や環境に対するコントロールを持ちたいという動機は、PE Fitの達成を通じて実現されます。人は仕事の要求に対応する能力を持ち、職場での役割や責任をコントロールすることで、自身のパフォーマンスや満足度を高めたいと考えます。例えば、仕事の役割に自分の能力が適合することで、自分の仕事や状況に対するコントロール感が得られます。

5. 所属(Belonging)への動機

人は安定した対人関係を持ち、社会的に受け入れられたいという欲求を持ちます。この所属のニーズは、組織や同僚との価値観の一致や補完的なフィットを通じて満たされます。例えば、組織の価値観に適応することで、長期的な組織内での滞在が促進され、個人が所属していると感じられるようになります。


松井(2021)の場合

松井(2021)は2006年から2021年の間に発表された関連論文をレビューし、個人ー環境適合(P-E Fit)の先行要因と効果を整理しています。

【個人要因】
1. キャリア・イニシアチブ
従業員が自らのキャリアを積極的に進めるための自主的な行動(例:キャリアプランニングやスキル開発)です。これにより、知覚された職務要求と能力の適合度(D-A Fit)が向上します。

2. ワーク・エンゲージメント
仕事に対する「活発さ、献身さ、吸収力」を特徴とする積極的で前向きな状態で、P-J FitをはじめとするP-E Fitに良い影響を与えるとされています。

3. キャリア適応性
職務や労働条件の変化に柔軟に対応できる能力で、P-J Fitおよび個人ー組織適合(P-O Fit)を通じて従業員の職務満足度と関連しています。

【環境要因】
4. 上司のサポート
上司が部下の貢献を評価し、福祉を気にかけるサポートは個人ー組織適合(P-O Fit)に影響を与え、従業員の職務満足度や組織市民行動を促進します。

5. 変革型リーダーシップ
リーダーが従業員に高次の目標意識を持たせ、職場の長期的利益のための働きかけを行うリーダーシップです。これにより、個人ー上司適合度(P-S Fit)が強化され、従業員のパフォーマンス向上に寄与します。

Keane(2024)の場合

Keane(2024)では個人ー環境適合(Person–Environment Fit, P-E Fit)と従業員エンゲージメントの双方向の関係について検討しており、P-E Fitの先行要因についても検討されています。

【組織レベル】
1.組織風土
職場風土は従業員の態度や行動に影響を与え、共有された価値観が維持・育
成されるプロセスに影響を与えます。

2.企業の社会的責任(CSR)
組織が労働者や社会の価値観に配慮することで、従業員は不快な状況が最小限に抑えられることを認識し、価値観の一致と従業員のエンゲージメントを高めることにつながります。

3.社会化戦術
企業による組織社会化戦術が成功すれば、新しく参画した従業員が環境の変化に伴うネガティブな感情を最小限に抑え、ポジティブな経験をする可能性が高くなります。

【グループレベル】
4.リーダーシップ・スタイル
サーバント・リーダーシップ、変革型リーダーシップ、エンパワーリング・リーダーシップ、エンゲージング・リーダーシップの5つがP-E Fitの先行要因として特定されました。

5.プロアクティブ・パーソナリティ
組織メンバーが集団的にプロアクティブ・パーソナリティを持っており、互いに、そしてリーダーのそれと一致しているとき、彼らはより大きなPE適合性を享受します。

6.協同的なジョブ・クラフティング
同僚と協同で行うジョブ・クラフティングが、グループの一体感を高め、P-E適合に良い影響を与えるとされています。

【個人レベル】
7.調和的情熱と信頼
調和的な情熱と信頼は、労働者が職場で仲間を作りたいという願望と能力に関係します。

8.執着的情熱、内発的キャリア価値、レジリエンス、責任感、自己効力感
これらの心理は労働者の職務において効果的に機能したいという欲望と能力により密接に関連します。


実践への示唆

個人ー職務適合の先行要因を見てきました。組織やグループ要因に目を向けると、リーダーシップや上司のサポートなど周囲の働きかけが従業員の適合に影響していることがわかります。適合感についても身近な同僚の果たす役割は大きいようです。

個人要因に目を向けると、主体的にキャリアに取り組んだり環境をコントロールしたいという感情が挙げられています。人生を自分自身でドライブしている感覚は適合感につながるようです。同時にワーク・エンゲージメント、レジリエンスや快楽への動機などは、活力に満ちて自分の望む状態になろうとする姿が想像できます。適合に前に元気であることが重要とも言えそうです。

個人ー職務適合の先行要因やそのメカニズムの研究が進んで、適合感を感じられる人が増えることを願っています。

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