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「自然主義入門」を読む AIは多様な人間のあり方を擁護する

  認知科学の一つの見方として、進化論的に議論することがあります。例えば人の共感能力は、人と共同することができれば生存に有利であって、そのため共感能力を持った個体が選別されます。今の人類の中で共感能力が広く見られるのはそのためとする議論です。

 「自然主義入門」の中で、モジュールという考え方が出てきます。モジュールとは動物の脳に存在するパーツのようなものです。ただ脳の中の特定の場所にあるというより、脳のネットワークとして機能として実現されています。動物は外界に対して反応するときに、いちいち個別的に考えずにモジュールの反応として行動するようにできているという仮説です。例えば蛇を見たときには、反射的に逃げるというような行動をとるようにモジュールは最適化されています。

 道徳判断や道徳価値もまたこれらの生得的モジュールによって支えられているという考え方です。これらの生得的なモジュールは道徳的価値な基盤です。道徳という人間社会に固有なものと考えられているものも、生得的なものの基盤の上に成り立っているという仮説です。これを生得説といいます。

 それにたいして、モジュールのような多様な生得的な原理によって認知などが獲得されるのではなく、もっと少ない原理によって獲得されるという考えが経験主義です。哲学において経験とは、普通の会話に出てくる経験とは違います。外界の刺激や手でもって触ってみる、動かしてみるなど、実験に近い感じのものを指します。

 少ない原理と経験だけで複雑な認識が可能という仮説は、仮説としてはあっても、その原理とは何かを特定することが難しかったです。しかし近年のAIの発達によって一般的な原理とデータの処理によって複雑な認識が可能なことがわかってきました。AIの原理を使えば人間の顔の認識などもデータをもとにして可能になります。

 進化で人間を説明するというのは、いまや主流とも言える説明の仕方だったのですが、AIの発達によって違う可能性が説得力を持って登場したというわけです。

 生得説は豊かな本能的なものを持って生まれると考えます。しかし、逆に言えば人間の可能性を生得的なものにおおきく限定してまいます。人間の科学をふくむ文化のちからを限定するとも言えるでしょう。

 構成主義とは人間が社会のあり方によって構成されているという考え方であり、逆を言えば人間の可能性をもっと広く考えることのできる考え方とも言えます。AIは人間の可能性を広く捉えることのできる新しい機械の登場であるという考え方は、私にはありませんでした。

 機械は私達の世界を変えてきました。例えば蒸気機関などです。AIは私達の仕事を奪うものという認識だけでなく、もっと違う認識を与える機械なのだと気づかせてくれました。

 

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