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何のための質問か
教育のためのTOC Advent Calendar 2022の19日目の記事です。
ずっと書きかったことがあって、いい機会なので今回アウトプットしようかなと思います。
教育のためのTOC Advent Calendar 2022 - Adventar
ワークショップにおける「質問」の分類
さて、教育のためのTOCというのは「ちゃんと考える」ための思考ツールなんですが、それを学ぶ場というのは基本的にワークショップ形式であることが多いです。つまり、講師が一方的に情報を伝えて参加者がそれを聞いている、というものではなくて、その場にいる人たちが互いに質問したり意見を出し合ったりして、一緒に場を作り上げていくような形式です。
そんなワークショップにおける「問い」のパターンが、下記の記事に分かりやすくまとめられています。
この記事の中で分類されてると問いの4パターン「シンプル・クエスチョン」「ティーチング・クエスチョン」「コーチング・クエスチョン」「フィロソフィカル・クエスチョン」について、簡単に以下の図のようにまとめられています。
![](https://assets.st-note.com/img/1671422431335-tEz7HLReVG.png?width=1200)
(ファシリテーションにおける問いの4パターン|安斎勇樹|noteより抜粋)
ワークショップにおいて、どの問いがいいとか悪いとかそういうことではなく、これらを「意識的に使い分けること」が大事だと思ってます。
とあるワークショップで起こったこと
ところで、教育のためのTOCでは、CLR(Categoris of Legitimate Reservation)という質問の分類を学びます。今回はこの分類の詳細の説明は省略しますが、CLRは他人または自分自身に質問する際の「礼儀正しいディスカッションのための作法」として使われます。「この言葉はどういう意味ですか?」「他に要因はありませんか?」など、いろいろな視点で思考を見直します。つまりCLRでは、問う側は「答えを持っていない」というマインドで質問することになり、上記の分類でいえばコーチング・クエスチョンやフィロソフィカル・クエスチョンに相当する質問になります。
私が講師役を務めたこのCLRのワークショップの中で、とあるワークを行いました。ある出来事について、ブランチという手法で、グループごとに付箋と矢印を使ってこの現象を分析してもらいました。そのあとで、グループの人が1人だけ残り、他のメンバーは他のグループに移動した上で、1人残ったメンバーが自分のグループの分析結果について説明します。そしてここから、その前に学習したCLRの手法を使って、他グループから来たメンバーがその分析結果に対して「質問」してください、という流れでした。質問することで他グループメンバーの理解が深まり、質問される側も思考を見直すことができる、というのがそこでの意図でした。
しかし結果として何が起こったかというと「ここはうちのグループではこういう分析だったんですけどなんでこうじゃないんですか?」「ここは間違ってるんじゃないですか?」「もっとこうした方がわかりやすいでしょ?」というような質問、いうなれば「攻撃的な」ティーチング・クエスチョンが相次ぎました。私のファシリテーションも良くなかったところがあるとは思いますが、思考を見直したり、他人を理解したり、そういう意図での質問があまり出ていませんでした。後にアンケートで「1人だけ残されて責められているような状況になった」「2人残してあげた方が心強かったんじゃないか」という感想がみられましたが、それほどまでに攻撃的なティーチング・クエスチョンがあったのだろうと想像できました。
「何のための質問か」を意識する
ここで述べたいのは「ティーチング・クエスチョンはだめだ」ということではありません。適切な質問で気づきを与え、答えに導くことも時には必要でしょう。学校の先生などは特に意識的に発問というテクニックを使って生徒の学びをサポートしています。
ただ、ティーチング・クエスチョンは攻撃的になると相手を傷つけたり、また過剰な誘導で相手の気づきのチャンスを奪ったり、あるいは自分の意見に相手を従わせることになったりする可能性を含んでいて、それはCLRが意図する「礼儀正しいディスカッションのための作法」とは程通いものになります。例えば、同じ「この言葉はどういう意味ですか?」という質問でも、「この言葉を相手がどういう意味で使っているか確認したい」という意図なのか「この言葉の本当の意味はこれなのに間違って使ってるから正したい」という意図なのかで、ずいぶん意味合いが変わってきます。後者は質問者が「自分が答えを持っている」と思っており、「相手は間違っている」と決めつけて質問しています。これは攻撃的なティーチング・クエスチョンと言えるでしょう。
CLRを学んだ人たちが、「相手に質問しましょう」という表層的な部分だけを理解をして、「思考の見直し」が適切に行えていないとしたら、実にもったいないことです。私自身もワークショップのファシリテーションや場づくりのところを大いに反省したいと思っています。
最後に
教育のためのTOCの国際認定プログラムでは、最後に認定証をお渡ししています。その中に「Moral Code」という文章が書かれていて、教育のためのTOCを学び、使っていくすべての人は、このことを心に留めておいてくださいね、というメッセージになっています。Moral Codeの文章は以下のような内容です。
As we strive to leave behind a better world, we will use the TOC tools in the spirit in which they are intended with the overriding condition that no one gets harmed by our actions.
この中に「no one gets harmed by our actions」つまり「自身の行動によって誰かが傷つかないように」という一節があります。教育のためのTOCを学ぶかどうかに関わらず、誰かとコミュニケーションをとろうとするすべての人が、この気持ちをもって相手と接することができればいいなと心から思います。