地球環境に負荷をかけてでもキンキンに冷えたお部屋を用意すべきか?
先日、とあるお客様が、お部屋が暑いからという理由でお帰りになってしまいました。
温泉に入ったあと、お部屋の温度はどう感じる?
代替のお部屋をご用意させていただく提案をしましたが、悪いからという理由でお引き受けいただけず、そのまま颯爽とご出発なさいました。まだご夕食前の早いお時間だったこともあり、ご料金はいただきませんでした。
あとでお部屋に入り温度を確認すると、たしかに涼しくない。暑いというほどではないですが、多分、お部屋の温泉に入ったあとの、いわゆる「風呂上がり」の状態だったなら、きっとこの程度の冷房では快適には感じられないだろうということは十分に想像できました。
しまった、と。この日はシーズン1番の酷暑日と言ってもいい日で、朝の出勤時に車を運転しながら、「今日はチラーの設定温度を下げておかないとな」と思っていたのでした。思っていたのに、下げるのを忘れていたんですね。
厄介な「セントラル空調」という遺産
チラーというのは、電気ヒートポンプ、通称EHPと呼ばれる中央制御型の冷暖房システムのことです。設定温度まで冷やされた水(あるいは温められたお湯)が、館内に巡らされた配管の中を循環し、ファンコイルユニットの吹き出し口などを通じて冷風(または温風)を得る仕組みになっています。
当館のメゾネットタイプのお部屋はすべてこの中央制御型の冷暖房(セントラル空調)になっており、お客様が操作できるのは、送風の強さの3段階調節と、オン・オフだけになっています。個別のエアコンが室内にないため、大元の設定温度が大丈夫か、エラーで機能停止していないかを確認することがとても重要になってくるのです。
この制御システム自体の良し悪しはともかく、すでにそのシステムが存在している以上、運営的にはシステムのクセを理解した上で、あくまでもお客様には快適な環境を提供できるよう努めなければなりません。
今回は、単に私が設定温度を下げ忘れていたということだけでなく、事後的な検証を行った結果、EHP自体がエラーで機能していなかった可能性がある、という結論にいたりました。
施設の重要な設備にエラーが出ていたら、普通気づく、あるいは何らかの方法によって気づけるような仕組みになっているのではないかと思われるかもしれませんが、実はそう簡単な話でないこともあります。システムのコントロールパネルでは問題なく動作しているように見えていても、実際に吹き出し口のところから出てくる風が期待通りの温度でなく、コントロールパネルの感知していないところで人知れずエラーを起こしている、という場合があるのです。この場合、頼りになるのはスタッフの「勘」だけです。
チェックイン前のお部屋チェックで客室に入ったときに、お部屋の温度に違和感を感じることがあります。まだ冷房つけたばかりなのかな、これから冷えてくるだろうと様子を見るか、あるいは吹き出し口に手を当ててみて、「おかしい」と感じるか。
食事処で夕食に向けた準備をしていて、あれ、いつまでも蒸し暑いな、とか、いつまでも暖まらないな、という、ポロッと出てくる心のつぶやきを逃さずにキャッチできるかどうか。
快適さを左右する3つのポイント
空間の違和感を放置しない、というのは意外と難しいんです。これは、その場所、その環境に固有の問題であることが多いので、空調屋さんでもないかぎり、一年を通してその場で過ごしてみないと、どんな状態が正常で、どんな状態が異常なのかわかりません。「もしかしたらこれが原因かも?」と推測する手立てすらないこともあります。
もう何年前のことか忘れましたが、お客様から教わった非常に印象的なフレーズがあります。
ここでいう「温度」は、湿度も含めた「温湿度」として捉えた方がより適切かと思いますが、この話を聞いたとき、「まさに私たちは、毎日をここから積み上げなければならないのだ」と痛感したことを覚えています。
その空間に入ったとき、どんなニオイがしているか、あるいはしていないか。何が聞こえているのか、あるいは聞こえていないのか。そしてやはり、温湿度の体感はどんな感じか。
文字にしてしまえば至極当たり前に思えるようなことです。ですが世の中に関わっていると、「当たり前のことほど難しく、難しいことほど簡単である」と感じる場面が多々あるものです。
直感を働かせ、フラットな感覚で状況を認識するよう努めることは、日々のややこしい業務に忙殺されていると、意外と難しい。そのあたりのセンサーがだんだん鈍くなってくるんですよね。今年の夏は暑くて、あまりに暑いものだから判断力もつい鈍りがちですが、そこのところ気をつけていきたいなと、あらためて思うこの頃でした。
SwitchBotのIoTデバイスで、客室の温湿度を遠隔チェック
問題になったお部屋タイプは、靖山樓メゾネットツインという、当館でもっともリーズナブルなタイプのお部屋です。計4室あるのですが、今回の件を受けて、4部屋すべてにSwitchBot社のIoT温湿度計を導入し、事務室から遠隔で各部屋の温湿度をチェックできるように改善いたしました。
これにより、肌感覚ではなく、数字に基づいた温度の判断基準を作ることができるので、従業員による客室チェックのバラつきをおさえることができます。こういった小さな標準化を積み重ねていくのって、簡単なようで、けっこう大変ですよね。
Bluetooth通信の範囲内であれば、この端末一台で、スマホやタブレットから温湿度をチェックすることができるのですが、たとえばこれを客室において、離れた事務室などからも遠隔で各客室の温湿度を確認したいという場合には、もうひとつ、下記のハブを噛ませる必要があります。
実は、最近はこのハブと温湿度が一体化した商品も発売されているので、どちらを選ぶかはお好みで。私たちの場合は、このハブ機能は2部屋に1個あれば十分に通信をカバーできると思ったので、4個の単独温湿度計と、2個のハブ、という構成で、安価にセットアップしました。
地球環境に負荷をかけてでもキンキンに冷えたお部屋を用意すべきか?
ロハスな宿を標榜する山人-yamado-としては、地球環境に負荷をかけてでもキンキンに冷えたお部屋を用意すべきなのか、という問題は残ります。AmazonやAppleのオフィスの温度は、その通り「地球環境に負荷をかけてでも従業員に最高の環境を用意する」という理由で21.5℃だそうです。
個人的には26℃設定でも十分に過ごしやすいので、オフィスはそれくらいで、お客様のお部屋は、やはり温泉に入って体が熱くなりやすいことも考えれば、24〜25℃設定あたりがいいかなとは思っています。
こちらもお盆を過ぎれば秋の空気になり自然と涼しくなってはきますが、ことしは厳しい残暑になることも予想されていますから、まだ当面のあいだは、お部屋を気持ちよく冷やしてお待ちしたいと思います。みなさまどうぞ、夏の疲れを癒しにいらしてください。