きびなご揚げた
きびなごを揚げた。
時系列に説明する。
あるおじさんが僕の知り合いにきびなごをくれた。
そのきびなごをもらった僕の知り合いが、僕にきびなごをくれた。
人づてにきびなごをもらった。
おすそ分けをもらった。
ビニール袋に入れて氷漬けにされた鮮魚。
いくつかレシピの選択肢をもらった結果、僕は素揚げにすることに決めた。僕は素揚げなら経験はあるから、自信はあるとまでは言わないけどできるのだ。
持って帰ったけどその日は別メニューが既に準備されていた。
それでも迷惑にならないように全部台所が空いてから自分で責任もって揚げたり片付けたりするからと食い下がったけど、今日はこんな時間からガチャガチャされても迷惑だからやめろと怒られた。その日はきびなごを揚げられなかった。
冷蔵庫に入れとくように言われたから入れといた。
翌日の晩、
僕はきびなごを揚げた。
フライパンに1cmほどキャノーラ油を敷いて、
洗ってキッチンペーパーで水気を吸ったきびなごを丁寧に油に投入していった。低温からじっくり揚げた。
水気は吸ったものの、時々バチバチ弾ける。
油はこわい。
やがて、膨れたきびなごの腹が弾けだす。油も弾けるから困る。
少しきつね色を帯びたきびなごを、キッチンペーパーを敷いたバットに取り出す。
塩、塩コショウ、マヨネーズ、レモンを準備し、バットのまま食卓に出す。
好評だった。
冒頭の写真はもちろん僕の写真ではない。
僕の揚げたきびなごは写真データに残されることもなければ、もうこの世にも残っていない。僕がしっかり頂いた。僕の血肉になった。
僕の頭の中にだけ味と映像が刻まれている。
きびなごをくれた僕の知り合いは、
自分のきびなごを持ち帰り忘れたそうだ。
翌朝袋のまま捨てていた。
あるおじさんに捕まったきびなごは、
あるおじさんの元に残るか、
僕の知り合いの手に渡るか、
僕におすそ分けされるかで、
それぞれ命運を分けた格好となった。結果的に。
…それが何だって言うんだ?
きびなごの話だよ。