中学に入るや否や、大規模校におもねる
中学には自分の小学校(A)と別のもう1校(B)の、2つの小学校から児童が入学した。
Aは6年間クラス替えなし。1学年1クラス、25人の同じ顔ぶれと6年間顔を突き合わせて過ごす。
一方、Bは1学年150人以上、郊外ベッドタウンの大規模校。
同じ中学校区でも小学校区が変わると地域の構成が全く異なる。Aは農村地帯の山の麓に位置し、学校周辺の疎らな集落からぽつぽつと、そして学校から約2.5km離れた小さな住宅地からわらわらと、各々児童が通った。
僕の学年はA卒業時で25人。圧倒的多数派のBと交わるべく、ただ中学に入学するだけの緊張感以上の、上塗りされた独特の面持ちで春休みを過ごした。
4月になってすぐの頃、部活見学等を含めた入学前登校日みたいなのがあった。クラス分けが貼り出されたが、まだ散らばらず、AとB各々分かれて教室で待機。その時が、Aの僕ら25人で1つの教室に集まった最後だった。中学校の大きなコの字型の校舎1階の一角、同じ廊下の並びの隣り以降の教室からは、B出身の新1年生らのテンションの上がりきったはしゃぎ声が聞こえる。対して、僕らA出身25人は、女子を中心に表向きは楽しく会話しているものの、Bらのはしゃぎ声を聞いてどこか引いた感が。廊下の喧騒がより僕らAの教室内の静寂を際立たせていた。好きなやつばかりじゃないけど、6年間共にした25人だからそれなりに仲間だと、その時までは思っていた。
入学式当日、僕らA出身者は5クラスに均等に振り分けられた。B出身者で埋め尽くされた教室で、同じA出身のNは、Bのイケてる集団をもう既に見定めたようだった。A出身だということでナメられないように、どこか虚勢を張った態度だった。具体的には新しい制服をちょっと着崩したり、小学校のときより少し伸ばした髪型で前髪をかき上げたり。それらの(僕からすれば)虚勢がBの連中にどこまで見透かされてるか分からないが、Bのイケてる集団はそんなNをすぐに取り込んだ。
「あ、もう入った」
あまりにも鮮やかな取り込み劇を見て僕は思った。
いや、Bの連中の取り込み劇のようだけど、そのジツ、Nがおもねったのだ。
一連の描写全てがAとBの集団の上下関係を浮き彫りにしているようだけど、実際そうだ。本来は上も下も糞もないんだけど、数の利は大きい。僕にとって中学入学は喜びではなく、大きく口を開けたクジラの中へただ吸収されに行く行為だった。
Nは嫌いだったが、ひとつ擁護するなら、Nも必死だったろうと、今はそんな気がしている。
その後の中学生活は、良いことも少しはあったかもしれないけど記憶にはない。AもBもない、とにかく朱に交わって赤くならなければいけない世界で必死に混沌と過ごした。
人がおもねるのを見たのは、後にも先にもその時だけだった。