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ごめんください

「ごめんください」が使える人は、かなりの日本語上級者だと思う。「ごめん」に「ください」を付け足そうなどとは、あまり考えにくい。「ごめんください」の完成形を初めから知らない限り、「ごめん」と「ください」の2語を応用して結合しようとは、あまり考え付かないだろうと思うんですよ。

「ごめんください」を使ってる場面としては、例えば山田洋次監督の映画とか小津安二郎監督の劇中とか、そんなところで使われてそうなイメージだ。

大正とか昭和初期のまだ戦争のきな臭さが漂う前の、中上流階級の、女性の権利にも理解がありそうな紳士が、初夏の汗ばむ時期の外回りの仕事の道すがら、ふと立ち寄ったお茶屋さん(変な意味のお茶屋さんじゃなくて本当のお茶屋さん)で、ハンカチで額を拭い帽子を取って一言、

「ごめんください」



あるいは、

明治後期の、江戸時代からの脱・封建社会の機運がようやく庶民にも浸透しつつあった時、書生の若者が下宿する家の奥さん(よく細君と呼ばれている人)が所用で出かけるところ、書生に留守番を頼むため、書生の部屋の前まで来て、襖を開けて声をかけようか迷うものの、開けずに部屋の外から声だけ掛けて一言、

「ごめんください」



僕も明日、患者さんの部屋に入るとき使ってみよう。