春のにおい
春のにおいについてはこの時季にしか書けない。過ぎたら次香るまで忘れてしまうから。
何のにおいか?
その辺の空き地や茂みに緑色の割合が増えてきたにおい?少し湿り気が混ざり始めた空気がアスファルトや土からもわっと上がってくるにおい?
当たらずとも遠からず、たぶんそんなところだろうと思う。
においは記憶と結び付く。だから、ある時たまたまにおっていたにおいを別の状況でにおっても、全く関係ない記憶がよみがえる。
僕にとって春のにおいは、生協のお店でバイトしてた時のにおいだ。夕方のシフトに行くときのにおい。店内に入って生鮮食品と雑誌の印紙の混ざった香りから、冷気を感じてバックヤードに入り生ゴミのにおいに変わる。当時好きだった発泡酒とニラまんじゅうのお惣菜を買って帰って食べたにおい。
生協のお客さんは、「お客さん」ではなく「組合員さん」と呼ぶ決まりがあるけど、言いにくいから全然定着しない。
時は今。
夕方、仕事が終わって外に出たらふわっ春のにおいに気付いた。