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クレープをぼろぼろこぼす

ついにクレープに手を出した。

何を大袈裟な。

それもそのはず。街に来たタイミングで普段しない体験をせずしては帰れるかと、僕は駅前の賑わいの外れのミスドに挑もうとしていたが、敗れた。理由は「吹き出物が心配だったから」だ。

今日は負けない。

街に来て、用事は済ませた。そのまま地元へとんぼ返りは味気ない。そうだ。わかってる。勢いと思い付きで何か体験を得たいんだろう。今日は「新しい体験への期待」の方が「吹き出物の心配」を上回っている。今朝はゆで卵は食べてない。いける。

と言っても、駅前の外れの店と言えばミスドが関の山だ。

ミスドもいいけど、今日はミスドじゃなくて、他にいいスポットはないのか?


あるよ。

田中要次さん?

雑居ビル1階のオープンスペースにクレープ屋さんだ。灯台下暗しだった。今日はクレープで決まりだ。持ち帰ってお土産にはしづらいから僕1人で頂いてしまおう。


バタークレープだと。初めてだ。よく分からないから、メニュー表の先頭にある、おそらくレギュラータイプとおぼしきシュガーバターを注文。

5分待つや否や出来上がり。

思ってたんと違う。クリームがない。よく見たら(よく見なくても)店のポップのサンプル写真にもクリームが載ったクレープはない。僕はクレープと言えば生クリームカスタードとかチョコバナナ生クリームとか、しっかりめのクリームクレープを期待していたが、バタークレープとはいかに。クリームは入ってないのだ。パンで言うところの「バターロール」の構造か。パン生地にバターがしっかり練り込まれているのであって、ロールパンの中にはバターもクリームも「具」としては入ってないという、あの構造か。

幼少期に、ミルクパンではなく「ミルク生地」の触れ込みに騙されてかじったパンからミルククリームらしきものが何も出てこなかった時に、泣いた。

ポップをよく見てなかった僕が悪い。僕はこういう時、値段とか内容とかよく見ずに買う。慣れないことをして浮き足立つからだ。よく知りもしないものを、店員さんに聞くという行為をすっ飛ばし、知ったかぶりで注文して、注文してからミスに焦るが訂正することなく商品を受け取ってから凹む。聞くは一時の恥だよ。



注文したのはシュガーバターなので、ざらめのお砂糖がしっかりまぶされてて、生地はさっくりフワリだった。お店をレビューしてるブロガーの記事には、「絶対こぼすので車の中ではなく店の前で食べるのがオススメ」とある。しかし僕は車の中で食べた。なぜなら、このブロガーさんの記事を見たのはついさっきだからだ。

購入当日は駐車場に直行して車で食べた。なぜなら店の前で食べるのが恥ずかしかったからだ。

しっかりめにクリームの入った一般的なクレープは、上手くやればこぼさず食べられる。しかしこのバタークレープは無理だ。こぼすことを前提とした造りだ。発案者はおそらく、「食べるとき絶対こぼすけど、それ以上に味と雰囲気に自信を持ってるから、"食べるときにこぼす"という致命的な欠点は一見欠点でありもはや欠点ではない」ぐらいに考えてることだろう。これと同じタイプの思考回路としては、中華屋の主人による「作る時絶対油飛散するけど、むしろそれでこそ中華だから、店内べとついても関係ない」というのがある。


とにかく
僕はひとり運転席でぼろぼろザクザク、生地とざらめをこぼしたということ。美味しかったけど。