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演劇空間で見たい景色と、そのためにまずやってみた2つのこと

3月が終わろうとしています。3月4、5日に開催したさよならキャンプの演劇公演「あなたがどこにいても」が無事終演して、あっという間にほぼ一か月が経った。ご来場の皆様、いろんな形で応援をくださった皆様、本当にありがとうございました。

公演を観に来てくれた友達が、「なんか久々に芸術鑑賞した」「入り込めたし楽しめたわ」とLINEをくれて、じわっと広がる嬉しさがあった。楽しんでもらえたことはもちろん嬉しいのだけれど、「久々に」とか「芸術鑑賞」とか「入り込めた」というワードが、私の目には特に輝いて見えた。

最近ぼんやりと、私は演劇空間でどんな景色を見たいんだろう?と考えている。

演劇をつくる空間も、演劇を観る空間も、どちらも演劇を楽しむ空間という意味では演劇空間だ。他にも演劇を○○する空間といえる場所があるかもしれないけれど、ひとまず思いついたこの二つの空間について言葉にしてみようと思う。

演劇を”つくる”空間で見たい景色

一つの作品を形にして公演をしましょう、となった場合。演劇をつくる空間に存在するのは劇団員、役者、スタッフ、作者、演出家など、つくり手と呼ばれる人たち。場合や状況によっては「演劇を観る」人もそこに居るかもしれない。

まず、みんなが演劇をつくることにわくわくと楽しみな気持ちで集まるのが良い。もちろんその日その人のコンディションによってブレはあるだろうけど、演劇をつくる空間そのものは、毎日でも通いたくなるような居心地の良い場所にしたい。

「居心地の良い場所」も2つの視点から考えられる。まずは生理的・身体的な居心地の良さ。においや音、気温など五感に刺さってくる不快がないことと、身体的に傷つけられる不安や心配がなく安全であること。

もう一つは精神的な居心地の良さ。「私はここにいていいんだな」と思える安心感、所属感があったり、「こういうことで役に立てる」という貢献感があったり。「傷つけられるかもしれない」「嫌なことが起こるかもしれない」といった精神的な不安や心配を抱くことがないこと。

身体的にも精神的にも安全が保障されていて、そこにいる人が表現活動そのものにまっすぐに、リラックスして打ち込んでいる状態。そんな光景を見たいと思う。

そういう状態の人たちは一体どんなふうに見えるんだろう。笑っているのか、眉間にしわを寄せているのか。人によっては夢中になるほど真顔になっていくかもしれない。その場所はにぎやかかもしれないし、シーンとしているかもしれない。どちらが良いとか悪いとか、それだけで判断することはできない。

少なくとも、みんなが同じ表情をしていたり、同じことを言って賛同し合っている状態を目指す必要はないと思う。一見異なる状態に見える人達同士が、お互いの差異を受け入れながら、無理せず自分らしい居方で演劇づくりを楽しんでいる。そんな空間を作れたらいい。

まずやってみたこと❶

まずはさよならキャンプでもハラスメント防止ガイドラインを作って公開することにした。演劇づくりの現場はハラスメントが起こりやすく、全国の大小さまざまな劇団・団体で問題が起こっている。もちろん福井でも。

このガイドラインをつくったからといってハラスメントが起こらないわけではなく、稽古のたびに積み重ね、気を付けて、定期的に振り返りながら予防していく必要がある。そのための第一歩として制定したまでなので、取り組みはまだまだこれから。少しずつでも、環境づくりを進めていきたい。


演劇を”観る”空間で見たい景色

公演を観に来てくれたお客様には、もちろん、当然、演劇を楽しんでもらいたい。この「演劇を楽しむ」「観る」ということが、当たり前のようで意外と保障されていなかったりする。

演劇を観ることが少ない方は、映画に例えてもらうと分かりやすいかもしれない。映画館に着いてチケットを買い、予約した席に座って映画がスタートする。そして作品を楽しむ・・・という当たり前のように思われる一連の行動の中にいろんなトラップがある(と私は思っているのだけど、私が細かすぎる可能性もゼロではない)。例えば、

映画館の駐車場が分かりづらくて停められない、チケット売り場が混雑している(or機械化されていて操作が難しい)、予約した席がなかなか見つからない、やっと始まったと思ったら前の席のお客さんがずっと揺れてて映画どころじゃない・・・

このように、作品に思いっきり没頭するということ自体、実は結構ハードルが高いことなんじゃないだろうか。ハッキリ言って当たりはずれがある。運が良ければ楽しめるし、悪ければ他のことに気が散って集中できない。そういうものでしょう、と言ってしまえばそれまでだけど、私はハズレ率をできるだけ下げた演劇空間をつくりたいと思っている。

▽ということを長々と語ったことがある▽

公演があると知り、予約をし、当日を迎えるまで。どんな芝居だろう?とわくわくとした気持ちを膨らませてもらいたい。

当日、迷うことなく会場に着くことができて、開演までの時間を思い思いに過ごす。席についてパンフレットを眺めるもよし。物販コーナーで買い物をするもよし。一緒に来た家族や友人と言葉を交わすのもいいし、一人目を閉じて開演前の空気や音を味わうのもいい。それぞれが過ごしたいように過ごせる距離感やあたたかさが流れている状態。

公演が始まると、みんなが舞台に注目する。舞台上で起こる出来事を息を飲んで見守ったり、ふっと空気が和らいだりする。他人同士の集団なのに不思議な一体感があって、お一人様も初めての方も、みんながどっぷりとその世界に浸る。その表情や姿勢はきっと人それぞれだけど、となりの人が姿勢を正す音やちょっとした咳払いなんかも、芝居を構成するひとつの要素として楽しむことができるかもしれない。そんな不思議な空間で、みんなが程よいリラックスとお互いへの敬意をもって芝居を楽しんでいる状態。

終演後。すぐに席を立たずに余韻を味わう人、会場のコンテンツを楽しむ人、何かしらの理由があって誰よりも早く会場を出る人。誰が誰の邪魔をするでもなく、目の前で起こった演劇という取り組みを自由に味わい合って、それぞれのペースで、自分たちの日常に帰っていく。

そんな場所がつくれたらどんなに素敵だろうか。この夢はまだまだぼんやりしていて、実現するためにはもっと解像度を上げていかないといけない。足りないものもたくさんあるけれど、少しずつ近づけていきたいと思っています。

まずやってみたこと❷

演劇を楽しみたい人が、ほどよいリラックス状態の中で、その場所を共有する他者への敬意をお互いに持ちながら、演劇そのものを思いっきり楽しめる空間。

その実現のためにやってみたことの一つが、観劇あんしんシート。観劇するにあたって何かしらの心配がある人に向けて、芝居の中で起こることを説明したオリジナルのシートで、「大きな音が出ます」「泣く演技があります」みたいなことから、「暴力描写があります」みたいなことも分かるようにしてある。

▽こちらはサンプル▽

演劇は生ものなので、目の前で生理的・精神的にどうしても苦手だということが起こってしまうと、不安や怖さが強まって作品を楽しめる状態ではなくなってしまう。それを防ぐためにつくったツールで、「もし他にも必要な人がいたら使ってください」と公開したところ、大きな反応をもらった。使ってくれる団体さんもいてとても嬉しく、一方で、観劇空間で傷ついてしまう人がまだまだいるんだな、ということも分かった。

このシートはネタバレにもつながってしまうので、どんな団体にもぴったりというわけではないけれど、楽しみたいと思って来てくれた人を不本意に傷つけたくないという思いそのものは、きっとどの劇団さんも持ってるんじゃないだろうか。どうだろう。

公演「あなたがどこにいても」のオールキャスト・スタッフ

さよならキャンプが生み出す演劇空間は、演劇を楽しみたい人にとって心地よい空間であってほしい。そういう場所をつくるために、これからも思いついたことを形にしてはメンバーに見せていこうと思う。いつも「いいね!」と言ってくれるみんなの存在が本当に心強い。

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